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 広島の先進7か国(G7)首脳会議に想定外のウクライナのゼレンスキー大統領が直接参加したことは、過去のいかなるG7サミットより、広島サミットを有意義なものにしました。戦争中の国の首脳が78年前に被爆し、完全に再建された広島で開催されたG7に参加したことは、世界を変えるかもしれません。

 この広島電撃訪問から帰国までに使用されたのがフランス政府が提供した航空機でした。ゼレンスキー氏の移動は、世界の首脳の中でも最も危険が伴いもので、通常、移動経路は事前に明かされることはありません。今回はそれは同様でしたが、そこにはマクロン氏の深い読みがあったことも指摘されています。

 仏日刊紙ル・フィガロは、仏大統領府エルゼ宮によれば、ゼレンスキー氏が直接、大統領府に対してフランス機使用を要請したとしています。エリゼ宮は「私たちはイエスと言ったんです」とエリゼ宮は説明し、ゼレンスキー代表団を迎えるため空軍のエアバスA330をポーランド国境に向かわせたとしています。

 まず、同機はサウジアラビアに向かい、ロシアへの制裁に消極的なアラブ諸国への協力を求めるため、19日にアラブ連盟首脳会議を前にメッセージを直接伝えました。そこから日本のG7に向かい、日本からモンゴル経由での帰国も同じ機だったと説明しています。

 仏大統領府の説明によれば、ゼレンスキー氏の要請を受け入れた理由は、マクロン氏が広島に出席しているすべての国家元首と政府首脳の中で、ゼレンスキー氏を最も古くから知る指導者で 「2人の間には信頼関係が存在した」との認識があったことを認めました。無論、外交の裏側には公表できないものもあります。

 フランス側にとってはリスクもありました。それは飛行中に同機が攻撃されることです。ロシアにしてみればゼレンスキー氏さえ排除すれば、ウクライナはロシアの手に落ちると考えている可能性はあります。仏メディアはその点について、マクロン氏は核保有国フランスの航空機を攻撃すれば、どうなるのかロシアは分かっていたはずと指摘しています。

 では、今はG7の古株となったマクロン氏とゼレンスキー氏の信頼関係の中身はといえば、まず、ウクライナ危機に対してマクロン氏は積極的に関与し、ウクライナとロシアとの対話の促進や停戦合意の達成に努め、ドンバス地域の紛争解決を支援しました。

 さらにノルマンディ・フォーマット会談を開催し、ドイツと共に紛争解決のための対話を促進し、政治的、経済的、軍事的支援を提供してきました。さらにウクライナの主権を支持し、ウクライナの欧州連合(EU)との関係強化の推進役をかって出た経緯もあります。

 もう一つ見落としがちなのはウクライナの文化財保護への支援です。フランスは文化財の扱いで専門性が高く、パリに本部を置くユネスコとともにウクライナの危険に晒される文化財の保護や教育支援に尽力してきました。

 マクロン氏は2017年に大統領に就任し、これまで7回のG7に参加し、今回の広島サミットの参加者の中ではカナダのトルドー首相に次ぐ古株となりました。そうでなければ殺害された安倍元首相が最も古株として今回のサミットで大きな存在感を示していたはずです。

 ゼレンスキー氏の直接参加は、仏大統領府によれば、サミット準備段階ですでにフランスとウクライナで話し合われていたとされています。結果的に欧州歴訪で軍事支援の確約をとったゼレンスキー氏は、ウクライナ危機に見て見ぬふりをするアラブを訪問した後、広島サミットに参加しました。無論、議長国の日本との最終調整は行われたでしょう。

 最大の目的は世界を主導する自由と民主主義、法治国家の理念を共有する先進7か国の首脳が集まる席に招待されたインド、ブラジルなどグローバルサウスの国々の首脳に直接ゼレンスキー氏が協力を訴えたことです。このインパクトはロシアには大きな衝撃を与えたことでしょう。

 ゼレンスキー氏がフランス機を利用したのは5月中旬にドイツからパリを訪問した時に続く2度目ですが、アラブ会議への出席、インド、ブラジルの首脳との直接会談について、マクロン氏は「ゲームチェンジャーの意味を持つ可能性がある」と述べています。