今や登山用品で人気を博すメリノウールは羊からとれる繊維。暖かいだけでなく、蒸れないことで発汗調整にすぐれ、柔らかく、欧米では直接肌に接する着方が一般的です。ただ、高額ということで登山愛好家など1部の消費者に偏る傾向がある一方、最近のキャンピング・ブームで新たな注目されています。

　そのメリノ種の羊は現在、オーストラリア、ニュージーランド、フランスで育てられていますが、フランス・アルルに存在するメルノウールの織物工場は一軒だけで、産業そのものが風前の灯火に追い込まれています。

　1950 年代に合成繊維の登場によりフランス市場のウール市場は崩壊し、 ウール が儲からなくなったため、紡績工場はフランスから姿を消しました。ところが高品質の自然素材ということで、アパレル産業のベンチャー企業が畜産農家と共同開発したブランドを立ち上げ、その試みが注目されています。

　エクサン・プロヴァンスとアルルの中間位置にあるサロン・ド・プロヴァンス（ブーシュ・デュ・ローヌ県）の平野では、200 年以上前からメリノ種の羊が繁殖しています。そんな同地でアルル繊維と呼ばれるウールの扱い方を知っている工場はフランスに 1 つだけした残っていません。

　とにかく、メリノウールの値段が時代と共に下落し、中国では羊毛が1キロ当たり2ユーロで販売されており、最近は１キロ当たり２ユーロ未満に落ちているため、産業として成り立たなくなっています。ヴォクリューズ社は ウールを 毎年 70 トン購入していますが、それだけでは羊毛農家は成り立ちません。

　ところが最近、メリルウール復活の動きがあり、それも地産地消で地元の羊からできたセーターなどの製品を国内で消費するSDGsの取り組みが注目を集めています。特に100％メリノウールの衣類に賭けるビジネスモデルも登場しています。

　結果的に一部の消費者は再び地元の素材に興味を示しており、これは フランスの 700 頭のメリノ羊飼育者にとっては天の恵みです。

　化学合成繊維に支配されるアパレル産業の中ではニッチで、大量生産大量消費のビジネスモデルには向かないかもしれませんが、 アウトドア派を中心に世界に静かなブームが起きることへの期待感もあります。メリノウールの良さは、寒い冬だけでななく暑い夏にも使え、ふっくらとしたかさ高が特徴。

　民族・宗教弾圧で強制労働によって生まれる新彊綿を今でも平気で使う日本の大手アパレルメーカーもありますが、そんなことは無縁のフランス産メリノウールが復活することへの期待が高まります。