一般的に困難な状況が生じた場合、過去の成功体験をもとに問題解決しようとする本能が働くのが常ですが、激変する世界においては過去の経験では解決できない状況が急増しているといわれています。通常、リスクマネジメントの理論では対応不能なリスクが生じれば、撤退しかありません。
それは多くの場合、正しい判断とされています。危険が伴う登山で天候が急変したために頂上まで数百メートルのところで登頂を断念し、下山するのは安全確保の基本です。しかし、過去の経験が適応できない状況もあるのが今の時代、逆に過去の経験に縛られていることで解決できない問題の方が増えています。
日本人は、そもそも即決即断で危険を顧みないギャンブル好きのアメリカ人とは異なり、世界一慎重な性格で「石橋を叩いて渡る」傾向があります。大胆さよりは確実性が好まれます。ところが新しい挑戦がなければ商機がないといわれる時代には、その性格は弱みです。
過去のビジネスで成功した人物たちは本田宗一郎に譬えられるように失敗を繰り返しながら、成果を生んできたことは誰でも知っています。無論、背後には大番頭がいて失敗を吸収して前に進めるような優秀な参謀がいたことも事実です。
ところでグローバルビジネスは想定外のリスクに晒される確率が何倍も高いのが現実です。東芝はアメリカの原発ビジネスで大きく躓きました。
ハーバードビジネスレビューに最近、掲載されたのは激動の時代を乗り切るリーダーに求められるのは「計画的な冷静さ」の重要性、つまり高い自制心の大切さを指摘しています。その冷静さは「古い行動パターンに支配されることなく、どのような反応が最善かを理性的に検討できることを指す」としています。
では、日本人はどうかといえば、冷静さとか自制心はかなりある方だと思います。ただ、ポイントは「古い行動パターンに支配されることなく」という点は難しいかもしれません。世代交代の遅れは「古い行動パターン」で、大胆な行動にブレーキが掛けられ、それが日本企業を停滞させている1因とも思われます。
新しい発想は過去に縛られない自由な発想が保障される必要があります。そこには夢があり、革新があり、それが人間の生活を進化させ、豊かにしていくことに繋がる経験を、われわれは積んできました。ところが経験主義の日本では経験が進化の邪魔をするケースが多く見かけられます。
計画的な冷静さとは、直面している問題や取り巻く環境を冷静に分析し、過去の経験知で解決できるのか検討する必要があるということです。
グローバル展開で日本国内で実績を出している人が海外拠点の拠点長として送られるケースが多くあります。経験と実績主義からいえば、当然の選択です。ところが、その人物は自分の経験知に異文化環境で頼ろうとすればするほど成果を出せないケースを渡しは個人的に見てきました。
ハーバードビジネスレビューの主張の計画的な冷静さの中身は、「リーダー層のパフォーマンス全般、想定外の環境への適応、楽観的思考の実践、共感や思いやりなどの対人関係能力、コラボレーション、チームづくり(心理的安全性の向上など)、新しい知識とスキルの習得を前提としています。
その前提スキルは「あらゆる想定外の難しい局面への対応策をあらかじめ決めておくのではなく、好奇心と柔軟な精神を持って、多角的な視点でチャレンジする」という方針を日々再確認することとしています。通常、問題解決やリスクマネジメントでは対応策は事前に決めておくものですが、それをしないというわけです。
異文化対応では、当然、事前に対応策を練るのは困難です。つまり、この異文化体験は人間の成長に大きく寄与するというのが私の結論です。国際性が身につくという中身は、激動の時代を生き抜く上で非常に重要なものがあるということです。
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