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 東南アジアで私自身が行った約10年前の調査で、興味深い、しかし、残念な結果に遭遇しました。調査内容は、日系企業で働くナショナルスタッフ(現地職員)が現地で働いていた日本人上司(すでに日本に帰国)をどう評価しているかというものでした。

 帰国した上司としたのは、現役だと問題が発生する可能性があったことと、実際に帰国した上司にも赴任中の感想を求めたからです。興味深いが残念な結果とは、ナショナルスタッフの6割強が厳しい評価を下したことです。

 ポジティブな答えでは「家族的雰囲気が上司にはあった」「親身に世話してくれて感謝している」「過去に勤めたアメリカの会社の上司より暖かい雰囲気だった」などで、東南アジアの人々の特徴がよく表れていました。

 一方、ネガティブな答えとして「結局、5年いた上司はわれわれを本当の意味で理解していなかった」が圧倒的に多く、不満のトップでした。「上から目線がストレスになった」「指示内容の説明が理解不能な場合が多かった」「職務詳細にない仕事を押し付けられた」「いつも日本本社を気にしていた」「自分がどう評価されているか最後まで分からなかった」「不満を真摯に聞いてくれなかった」などが続きました。

  つまり、調査は、上司への評価では、人柄が大きく左右する点と、リーダーシップやマネジメントで改善が必要なことが明らかになった点が大きな成果でした。

 問題なのは、日本側で、自分が苦戦したことを正直を話し、スキル不足を認める元駐在員もいる反面、自慢話をする人もいたことです。それもナショナルスタッフに厳しい評価が下された同じ人物が、いかにナショナルスタッフに感謝されたかと自慢話する姿には正直、厳しいものがありました。

 グローバル化に踏み出した某中堅企業の優れた経営者が言っていたのは印象的でした。それは経験主義の危うさです。その経営幹部は海外で経験したことを「安易に普遍化しないことが重要」と社員に語っているそうです。それは長い営業職経験からの結論でもあるそうです。

 自分が実績を上げると、ついつい自慢し、それを普遍化したがるのが人間です。しかし、実際に海外の数か国で実績を出している人から話を聞くと、国が違えば同じ方法は通じないことがほとんどなので、常に自分の判断が正しいか検討が必要で、決して普遍化も自慢もできないという話を多く聞きました。

 離任式の送別会でナショナルスタッフが涙を浮かべることも少なくありません。それで元上司は自分に感謝していると勘違いしますが、特に東南アジアの人々は長く一緒に働いていた人と別れることを惜しむだけの場合も少なくありません。評価はまったく別問題です。

 経験主義の日本では経験が理論に優先する傾向が強いわけですが、長い経験や調査、リーダーシップやマネジメントの普遍化できる部分を理論化したグローバルプレーヤー育成は有効な手段であることが確認されています。