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 最近亡くなった作曲家の坂本龍一は「世界のどこかの田舎で暮らすおばさんが耳にしていいなと思うような音楽を作りたい」といっていたそうです。われわれの日常にある様々な音を芸術に変え、その芸術が人間に生きる力を与えるという考えは芸術の原点です。

 人1倍、聴覚の敏感な音楽家、視覚に敏感な美術家の感性が捉える自然や人間が織りなす環境から人はそれを再創造します。芸術に転嫁することで多くの人々に共感を与え、生きる力をみなぎらせること以上に豊かさをもたらすものはありません。それが今、ビジネスの世界にも求められています。

 そこで重要さを増しているのが、科学と共に必要とされるクリエイティブな発想です。それを支えるのは自由であり、ワクワク感です。ある人は「ビジネスには情は必要ない。数学と物理的発想が全てだ」といいます。

 私にしてみればその発言には2つの問題を感じます。1つは、そもそも数学と物理の根底に哲学があることを知っての発言なのかということです。理性によって真理を探究するのが数学と物理の原点で、今、日本で認識される数学と物理は、単なる数字と科学的アプローチだけです。

 もう一つは人間は本来、自分の中に存在すり感情から自由ではなく、理性と感情の分離は不可能といわれています。取り組むプロジェクトへの動機づけや目標達成への執念は勘定抜きには存在しません。それは感情が豊かでない人間が考えることだし、完全に左脳人間の男性のロジックです。

 そもそも自由というのは個人に与えられるもので、自分が何を望み、何を求め、何を達成したいのかということです。和のために集団の中で集団のルールに従い、自分を押し殺すことを是としてきた日本で職人は育っても芸術が育たないのは当然の話です。

 しかし、今求められるクリエイティブマインドは、個人に与えられた自由が基本です。それを得るのは容易なことではありません。たとえば西洋では思春期に自由を与え、様々なことに挑戦することで本当にやりたいことを見つけさせるのが基本です。

 一方、日本は思春期に制服を着せ、厳しい校則を守らせ、他の国にはない「社会人」にしていくことに注力しています。新卒採用者を社会人化し、枠にはめることが重視されます。これでは自由な発想を持つ個性あふれるクリエイティブな人材を育てるのは無理があります。

 ワクワクするような製品を市場に投入することしか生き残る道のないビジネス界で、日本は不利な状況です。昔は終身雇用に支えられ、生活を心配することなく、仕事に集中できたことが大きなパワーを生んだわけですが、今は個人の力が問われる時代です。

 9・11米同時多発テロ以降、世界はテロとの戦いを主要テーマにし、そのテロを助長する地域紛争で過激派組織イスラム国の弱体化のための戦いも行ってきました。その後はコロナ禍に襲われ、人とモノの移動の大幅な制限は、ビジネスに深刻な影響を与え、今は物価やエネルギー価格高騰が続いています。
 ただ、そんな危機と同時にビジネスの世界では今、テクノロジーの進化に欠かせないのがクリエイティブな発想です。私の考えでは、紛争解決にもクリエイティブな発想が必要と考えています。理由はそれが人間が生きる力の源だからです。