1200x680_sc_maxnewsspecial
  パリはごみの山 France 3/France Bleuホームページよりc Maxppp - Delphine Goldsztejn

 政府が退職年齢を62歳から64歳に引き上げる年金改革を推し進める中、抗議運動は収まる様子がない。今月15日には8日目に突入した抗議デモは、法案が成立しても継続すると反対派は息巻いている。そんな中、ごみ収集業界はストライキに加わり、パリでは12日時点でパリ市の発表で6,000トン近くのごみが回収されず、全国で毎日、路上にゴミが積みあがっている。

 結果、そのごみの山から異臭が発っせられ、町中が悪臭に包まれている。パリの有名レストランは公共サービスによるごみ収集を諦め、民間業者に自分の店が出す毎日のごみを回収しに来てもらっている段階に入った。ところが近くのレストランや店が密かにそのレストランにごみを運び、回収の恩恵にあずかろうとして喧嘩になったりしている。

 資金のない南仏のレストランは、ごみを冷凍庫で保管している店もあるそうだ。こうなるとコロナ禍前に、あと一方で外国人旅行者が年間1億人に迫っていたフランスとしては、観光大国復活に水を差すという懸念が業界から上がっておかしくない状況だが、そうでもないらしい。

 パリの凱旋門近くのレストランの店主は「フランスでは2015年には大規模なテロがあり、2018年に黄色いベスト運動が始まり、毎週末、デモで街が荒れた。そこにコロナ禍に襲われて外出禁止措置も取られた。それを持ち堪えてきたわれわれには耐性ができている」と語る。

 パリ市観光局は、この事態でもパリを訪れる観光客は減っていないことを明らかにした。さらにイタリアのミラノで同じ事態になって数か月を過ごしたが、観光客は減らなかった例を挙げている。日本に住んだことのあるフランス人の友人は「日本みたいに町がピカピカな国ならともかく、ヨーロッパでは汚いのが普通だ」といっている。

 興味深いのは、フランスの各テレビ局がパリに来た外国人観光客にインタビューしているが、「ハネムーンが台無し」というドイツ人カップルもいる一方、「年金改革に抗議するのは理解できる」「フランス人がそこまで働きたくないというのも立派な考え」と理解を示す英国人もいる。

 その英国ではコロナ禍になって、健康問題や働くことへのモチベーションが下がり、50代で早期退職する人が続出し、人手不足が深刻になっている。ヨーロッパでは今、働くことの価値を疑問視する声はあちこちで聞かれる。社会保障が整備されていることでの余裕も感じるが、フランスでレストランがフル稼働になっても働いてくれる人がいなくてあちこちで悲鳴が上がっている。

 働くことが人生になっている日本人からすれば理解不能だが、そもそも働くことが人生の中心にないフランス人は、できるだけ短く働いて、できるだけ豊かな生活を送りたいわけだから、年金支給年齢引き上げは受け入れ難いということだ。

 そもそも多くのパリジアンは、コロナ禍で田舎に移動し、悪臭漂うパリにはいない。いるのは鼻をつまみながら観光する外国人旅行客ということになる。パリ市内で仕事をし、パリ郊外に住む姪っ子夫婦は最近、臭くて汚いパリを抜け出し、モーリシャスに10日間のバカンスに出かけた。