そもそも新型コロナウイルスの経済に与える本格的影響は2年から3年遅れで表面化すると経済アナリストたちはいっていました。米シリコンバレー銀行(SVB)の経営破綻は、それを象徴する出来事といえそうです。イエレン米財務長官は12日、銀行システムの残りの部分への伝染を防ぐことが課題だと述べました。
これまで世界経済をけん引してきたITハイテク業界で、スタートアップ企業を支えてきたはずのSVBの破綻は、想定外であるともに、他の金融機関だけでなく、ハイテク業界そのものにダメージを与える可能性があります。さらにはアメリカが夢中になっている対中経済戦争でアメリカの弱体化もささやかれているのが心配です。
当然ながら、バイデン政権にとっても痛手で、民主党寄りのリベラルなIT大手の混乱は政治的混乱に発展する可能性も秘めています。金融アナリストたちは、SVBや、同じく破綻の憂き目にあるシルバーゲート銀行について、米連邦準備制度理事会(FRB)の金利引き上げの影響を指摘しています。
インフレ抑制には正しい政策だとしても、金利引き上げによる国債金利の変動が金融機関に与える影響は深刻です。それでも堅実な製造業などを相手にする銀行は、影響は最小限かも知れませんが、景気動向に影響を受けやすいハイテク業界、暗号資産業界は、新型コロナウイルスがもたらした1時的景気浮揚とその後の落ち込みなどに影響を受けやすいのは事実です。
破綻した2行は、これらの業界をターゲットにしていました。シルバーゲート銀行は、実際の普及や持続的な収益にまだ時間が必要な暗号資産業界に特化していた銀行で、花形金融機関とも見られていましたが、コロカ禍で活況を呈した時期もあった一方、業界全体は低迷しています。
そうなると暗号資産業界否定論者は、ますます語気を強めるのでしょうが、問題はそんなに単純ではなく、今回露呈した問題は、金融の構造的問題に起因していると見られ、リセットが必要なのは確かです。新たなストレステストともいえます。
大統領選で共和党の指名獲得を目指す元国連大使のニッキー・ヘイリー氏は「納税者は絶対にSVBをベイルアウトするべきではない」との声明を出しました。事態収拾にバイデン政権が失敗すれば、確実に次期大統領選に響いてくる問題です。
いずれにせよ、一方でコロナ禍後の景気浮揚に期待感が高まる中、致命的欠陥が露呈し、表舞台から消えていく企業は今年、次々に出てきそうです。日本でも足腰の弱い中小企業だけでなく、大企業も財務状況の徹底的見直しやデジタル化への本腰を入れた切り替え、ダイバーシティ経営に切り替えることを怠れば、深刻な事態に陥る可能性は否定できないともいえます。
リーマンショックの時のように「銀行や預金者救済に公的資金を大規模に注入しない」とイエレン米財務長官も述べています。コロナ禍とウクライナ戦争で疲弊する先進国の国家予算を考えると、金融バブル、ITバブルで浮かれた企業への救済はありえないという空気も漂っています。
コロナ禍後の第2のグローバル化の波に乗るには、現状維持をリスクと捉え、改革、改善を急ぐことが必要でしょう。2023年はコロナ禍がもたらした負の遺産の影響が本格化ダメージとして現れる年であり、ウクライナ紛争の長期化が、さらに暗い影を落としていると見るべきでしょう。
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