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 今年に入り、欧州連合(EU)を離脱した英国は離脱後3年の英国経済を検証する試みを始めています。しかし、専門家たちはコロナ禍とその後のエネルギー危機が重なったことでブレグジットの検証は難しいとしています。

 それでも調査したメディアの中には英BBCのように多くの英国企業が最大の貿易相手国であるEUに対して新たなルール適応に手こずっており、英国企業の対EU輸出は減少しているとの指摘もあります。これはEU側にもいえることで、新たなルールが定着するにはあと数年は掛りそうです。

 しかし、EUから経済力2位の英国が抜けたことで、新たにメインプレーヤーに浮上したのはイタリアです。といってもトップのドイツのGDPからすれば、イタリアは半分しかなく、ドイツは2位のフランスの1.4倍です。いずれにしても英国を失ったEUにとってイタリアの存在感が増したことは否定できません。

 その新たな勢力図が定着していない事実が最近、小さな事件で発覚しました。それはウクライナのゼレンスキー大統領がブリュッセルの首脳会議に出席する前に、何とか戦闘機調達を可能にしようと英国、フランスを訪問し、特にパリではドイツのショルツ首相も呼んで会談を行いました。

 これに立腹したのはイタリアのメローニ首相で、仏独がEU加盟27カ国の首脳と会う前に会談を行ったことに不快感を表しました。同氏はEU首脳会議後の記者会見で、「エリゼ宮(仏大統領府)でのゼレンスキー氏との会談に招かれていたら、(マクロン、ゼレンスキー両氏に)こうした会談を行うべきではないと忠告していただろう」と批判しました。

 さらに「ウクライナ問題に関しては、EU内で結束したメッセージを出すことが何よりも重要だからだ」と述べました。無論、外交得点を稼ぎたいマクロン氏が注目度の高いウクライナ紛争で指導力を見せたかったことは明白です。特にショルツ氏がウクライナへの高度な重火器提供に消極的な中での演出だったともいえます。

 のけ者にされたイタリアが苛立つのも当然でしょう。仏独には未だにEUをけん引するのは2国であり、イタリアが視野に入っていないのは確かです。これまでイタリアはスペインやギリシャと並び、政権も安定せず、問題児扱いされることが多かっただけにEUのリーダー国の仲間入りには時間が掛かりそうです。

 マクロン氏は批判に対して、仏独はウクライナ東部紛争の停戦合意である「ミンスク合意」に関与しているため、ウクライナ情勢で「特別な役割」を果たしていると主張していますが、メローニ氏にしてみれば、骨抜き状態のミンスク合意を持ち出されても説得力はないでしょう。

 英仏独が主導してきたEUは今後、どこに向かっていくのでしょうか。プーチンはEU加盟国が1枚岩でないことに揺さぶりをかけています。その意味で仏独がEU全体の一体化にどの程度意識を持つかはウクライナ戦争を終わらせる鍵を握ると思われます。