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 ウクライナのゼレンスキー大統領の欧州行脚は9日、欧州連合(EU)首脳会議参加のためブリュッセルに到着しました。今回の外国訪問は昨年12月の米ワシントン訪問に次ぐ2度目であり、ロシアがウクライナに軍事侵攻して1年が経とうというタイミングでした。

 注目されたのは、ロシアが大規模攻撃を準備しているといわれる中、ゼレンスキー氏は英仏独首脳に会い、戦闘機の供与を強く求めたことです。これは米英仏独が戦車の供与を決めた中、空域の戦い強化に不可欠な戦闘機が、ロシアをウクライナから追い出すために不可欠との認識からです。

 この要求に対して、今の時点で明確に拒否しているのはドイツのショルツ首相です。さらにバイデン米大統領も戦闘機供与を断わっています。両者ともに内向きの左派系指導者で、ロシアのプーチン大統領を挑発し過ぎることへ懸念が戦争を終わらせる執念を上回っているといえそうです。

 米ウォールストリートジャーナル(WSJ)によると、スナク英首相は軍関係者に戦闘機供与が可能かどうか検討を指示したと報じています。訪英中、強い調子で戦闘機供与を訴えたゼレンスキー氏に対して、「あらゆる支援を排除しない」とスナク氏は答えました。

 英国に比べれば、次の訪問国だったフランスのマクロン大統領は「継続的支援を保証する」と述べ、同席したドイツのショルツ首相は戦闘機供与に否定的な考えを表明しました。ゼレンスキー氏はブリュッセルで国名を明らかにすることは避けましたが、「複数の国が戦闘機供与の意志を示している」と明かしました。

 無論、戦術的にいっているだけで、本当なのかどうかは分かりませんが、仏日刊紙ル・フィガロと独週刊誌デア・シュピーゲルの共同インタビューに答えたゼレンスキー氏は、6カ月以上戦闘が続く東方の都市バフムトがロシア軍によって占領されれば、彼らは「有利な立場に立つ」との見方を示しました。

 さらに「バフムトを奪えば、ロシア軍はさらに前進しようとすると思うだろう」と述べ、迫る危機的状況に強い懸念を示しました。これを防ぐためには戦車だけでなく、戦闘機は不可欠というわけですが、仮に供与する国があっても許与までの時間を考えると遅すぎるという見方もあります。

 しかし、ゼレンスキー氏にとっては戦車と戦闘機で補強するウクライナは、たとえ1時的にロシアが大規模攻撃で地域の占領ができても、強力な反撃能力が準備されていることをロシアに示すことになるのも確かです。大規模攻撃を思いとどまらせることに繋がるともいえるでしょう。

 核兵器使用をチラつかせるロシアに対して、ヨーロッパ全体が戦争に巻き込まれるリスクを冒したくないのは誰も同じです。ただ、ヨーロッパ内の空気感は、ロシアに接した旧中・東欧、バルト3国、北欧などの国々の危機感に比べ、ドイツ、フランス、イタリアなど西側大国は戦争とは無関係という認識を感じます。

 本当は鍵を握るのは、EU最大の大国ドイツですが、社民党出身のショルツ首相はロシアを挑発しないよう最大限の注意を払い、戦車の供与も米国と周辺国の圧力に屈し、しぶしぶ供与を決めただけで、できれば関わりたくないとの姿勢を崩していません。

 それに比べれば、英国は戦車供与の決断もすばやく、この1年間のウクライナ支援の判断の速さは他の西側諸国を抜きん出ています。相手が戦争を止める気がない以上、戦争を断念する材料をいかにロシアに与えるかしか戦争を終わらせる方法はありません。

 その強い意志を示すためには具体的アクションが必要です。問題は英国以外、この紛争に対して指導力を発揮するリーダーが米国を含め、見当たらないことです。