日本のみならず世界中の少子化に悩む、特に先進国にとっての人口減加速は深刻な問題です。少子化対策で優等生といわれたフランスを含め、今や少子化の前に立ちはだかるのは少子化の長期化で少母化が進み、子供を産むことができる15歳から45歳までの女性の数が減っている国も少なくありません。
同時に日本を含む欧米先進国や新興国の中に広がる個人の選択の自由という観点から、結婚や出産を人生の最優先に考えない女性も増え続けています。日本で育児や教育費、税負担に対して大幅に政府が支援したとしても、それで果たして女性が結婚し、子供を3人以上産みたいと思うようになるかは疑問です。
つまり、少子化は、これまで当たり前とされてきた結婚、子育てに関する伝統的価値観、人生観そのものが問い直されているということです。特に日本の場合は他国とは異なる特異な要素があるように見えます。それは女性の社会的な義務感への抵抗、伝統的価値観からの脱却という反動であり、そのことに保守派は答えを持っていないことです。
たとえば女性の社会進出率が世界1といわれ、女性の人権意識も高いスウェーデンを1990年代初頭から取材してみて、興味深いことは、当初、政府の後押しもあって社会進出した女性が、皮肉にも保育園などで働くようになり、自分の子どもを保育園に預け、自分が保育園で働くことに違和感があったことでした。
それは女性の高等教育化や高スキル習得で、ある程度解決されていますが、逆に仕事と子育てを同等に考えることもしませんでした。つまり、「子を産み、育てることは労働ではない」という考えから、女性が何を望んでいるかにフォーカスされるようになりました。
このブログで紹介したことのあるオランダ・モデルも労働時間で正社員かどうかを線引きするのを廃止し、会社の中で管理職の女性でも週20時間しか働かない正社員を認めることでした。彼女たちが子供とできるだけ長く過ごしたいという欲求とキャリアを積む欲求を両立させることで成果を出しています。
フランスも最近、コロナ禍が少子化に影響を与えたことや、年金制度改革で定年退職年齢を現行の62歳から段階的に64歳に引き上げる方向にある中、女性も労働者として政府に抗議する人が急増しています。デモ隊参加者から聞こえてくる声で興味深いのは「子育てと労働は別次元の話だけど」という内容です。
その意味するところは、フランスにはとっくの昔に義務感で子供を産む女性はいなくなり、個人の選択で幸せのために子供を産むようにより、時には組織のためにいやなこともしなければならない仕事とは別次元になっているからです。昔、日本で家事労働という言葉がありましたが、今は楽しめる家事が注目されています。
終身雇用も減少し、やっと会社と個人の関係は一過性のもので、家族は生涯のものという意識の住み分けが日本でも少しずつ浸透しているように見えます。そんな日本女性の中に子供を産んだことを後悔する女性も増えているという話を聞きます。理由は子育てが大変すぎるだけでなく、いい妻,いい母親になる周辺からのプレッシャーに耐えられないという日本らしい理由があるようです。
そんな話を聞いて子供を産むのを控える女性が増えるとしたら、少子化をさらに加速させることになるでしょう。日本を含むアジアの国々を除き、階層性が強い欧米諸国では、子育てに強烈にコミットして立派な子供を育てたいという意識より、幸せな人生を送って欲しいという親の方が一般的に多いと思われます。
未だに本音と建て前、社会的義務感が強い日本社会では、母親に掛かるプレッシャーも世界1かもしれません。小学校では学校活動への母親参加は常識化しており、受験のための内申書を上げるためにも母親の学校ボランティアは不可欠とされています。
子供が問題を起こせば学校の先生のみならず、子供の同級生の親からも批判を浴びるのが日本社会だし、その社会常識に一生懸命忖度しながら子育てするしかない側面もあります。そんなことを考えると結婚して子供を産み育てるハードルは高いだけで、幸せになれない印象も与えていることでしょう。
昔はお見合いの伝統もあったぐらいなので、結婚に親孝行や義務が先立つという印象を持つ若者は増える一方でしょう。人間は結婚して子供を産み育てて、初めて責任能力のある一人前の大人になれるということでいうと、そこには義務感の方が喜びに先立つ可能性は十分あります。
福祉大国といわれるヨーロッパに長く住んで感じたことは、国家は何のためにあるのかということです。国民の幸せを後押しする義務を果たせない国家を誰も必要としていないということです。子育て支援にGDP比で先進国の3分の1しか使わない国家に将来があるとは思えません。
それに戦後流行った「働かざる者食うべからず」の超消極的な貧しい精神は払しょくされていません。子育てを労働と見なす考えもその貧しい考えから来ているといわざるを得ません。家庭を持ち、子育てすることは労働と同等に見なすなどといえば、フランスでは軽蔑の対象です。
まるで日本には労働以上に価値あるものが存在しないようです。だから、定年退職しても働き続ける人が多いということでしょう。人生を楽しもう、人生を意味あるものにしようという意欲は人間としての最低限の基本的欲求だと思います。ここを問い直さなければ少子化は解決しないでしょう。
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