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 コロナ禍で変化したことの一つに大都市から田舎への移住が挙げられる。このブログに何度かフランスの移住事情を書いたが、2020年、コロナ元年にパリを出て田舎に引っ越した人の数は10万人を越えた。その後も確実に移住者は増え続け、コロナ明けの2022年も続いていた。

 過去の例と違い、コロナ禍の移住を支えたのはテレワークで自宅で仕事ができるようになったことが圧倒的に大きい。フランスではそもそも大都市思考は日本より弱い。パリの住人でも、できれば田舎暮らしをしたいと考える人は6割を超える。

 すでに日本より圧倒的に別荘保有率が高いフランスでは、週末になると別荘や貸別荘、キャンプに向かう車が高速道路を埋めている。フランス人妻の7人兄弟の3人は南フランスに定着し、他の兄弟もパリから田舎への移住を計画中だ。昨年は建築家の甥っ子もブルターニュに引っ越した。

 それにはっきり言ってフランスの田舎はどこも素晴らしい。田舎=さえない、落ちぶれているという雰囲気はない。街並みは美しく、建物は風景に溶け込んでいる。なだらかな大地に地平線まで広がる畑が続き、開放感が心を癒してくれる。

 最もコロナ禍で定着したのは、都会に月に数日出社した時に住む小さなアパートを所有し、本宅はパリから数百キロ離れた本宅というパターンのデュアルライフだ。驚いたことは何より決断が速いとだ。テレワークになって以来、堰を切ったように移住が始まり、決断の速さに予想以上だった。

 田舎への移住はパリの狭いアパート暮らしを脱し、交通渋滞や大気汚染から解放されるだけではない。手にした自然環境は何より子育てに最適だった。少子化対策にも効果があるということで、欧州連合(EU)は田舎への人口拡散を政策として支援している。

 一方、日本も移住は新たなライフスタイルのキーワードになっている。内閣府の調査でも東京圏在住者の約5割が地方への移住に関心を持っているという数字も出ている。

 ただ、現実にはパリも東京も実は人口は増えている。パリの場合は高等教育や職を求めての都市集中が継続していることが挙げられるが、東京の人口増は規模が違う。

 そもそも日本政府がめざす東京圏から地方への移住支援の念頭にある数字は1万人程度で、パリは放っておいても年に10万人が移住している。総人口費を考えると東京から田舎への移住比は微々たるものだ。

 それにスピード感は慎重な日本人の性格からして非常に遅い。マスメディアで移住の話題が増えたものの、フランスほどのブームにはなっていない。無論、慎重さは悪いことではないので移住先での定着は日本の方が確実かも知れない。

 ただ、移住の動機について共通項もある。それは日本の若者の変化がフランスに近づいたからだともいえる。たとえばZ世代といわれる日本の若者には昔日本にあった仏教から来る「人生修業」の考えは希薄だ。分け分からない上司の下で面白くもない仕事を与えられ、我慢することに意味は感じない。

 田舎の方がおもしろそうだと思えば、収入が減ったとしても我慢するよりいいという若者は増えている。無論、自分の本音に従うといっても、フランスほどの歴史がないので、単に感覚的決断で安易に動くこともある。フランス人の若者のようにキャリアを積んで自分を高く売ることに長けているわけではない。

 それでも時代の風を彼らは敏感に感じているはずだ。移住者が過疎化を救い、移住者自身も手に入れる物が都会より大きければ、Win Winの関係になり、それは持続可能な発展に繋がるはずだ。新しいテクノロジーを彼らは駆使することもできるし、新しいビジネスモデルを開発することもできる。

 デジタル化はまだ始まったばかりで、今後も試行錯誤しながら、人々の豊かな暮らしを生み出す道具として活用できれば、新しい世界が見えてくるかもしれない。