グローバル交渉術には、相手の国や地域によって、さまざまな注意点がある。たとえば、損得に敏感な中国での交渉では、相手の利益に注目するWIN-WINの交渉術は必須だ。ドイツではすぐ本題に入るので、導入で世間話をダラダラすることは歓迎されないが、アメリカではその場をリラックスさせるための世間話は重要だ。
相手の国の意思決定スタイルを知っておく必要がある。権力が上位役職に集中する東南アジアや南米では、権限のある人との交渉が必須だ。西洋は一般的に科学的、客観的根拠を示すことが重視されるが、中米では主観的に物事が判断される傾向が強い。南米では人間関係が重視される南米コストが待っている。
しかし、世界がカオス化する近年、ビジネスでの優位を続けるアメリカには、未だに学ぶべきものが多い。その一つは歴史が浅いことも原因しているが、ポジティブ思考が保たれていることだ。これは大西洋を挟んでヨーロッパと行ったり来たりしてきた筆者が実感していることで、英国を除き、大陸欧州は悲観的空気が常に漂っている。
フランスで英国系ハイテク企業で部長を務めるフランス人の友人は、これまでフランス。英国、イタリア、アルゼンチン、日本、アメリカに勤務した経験を持ち、彼はとりわけ、アメリカの強みとして、初等教育からの「ナンバーワン教育」を上げる。
アメリカ人は誉め言葉で「Great」という言葉を連発するが、子供対しては「自分は1番だ」という意識を持つことを教育している。それも他人と比較して1番という客観性もあまり必要としていない。自分は1番だという意識がモチベーションを高め、ポジティブ思考に繋がっている。
交渉の場では、アメリカ人は問題に遭遇しても、問題は必ず解決できるというポジティブ思考を持つ。無論、可能性がないと判断すれば日本よりは早く結論を出すが、そうでなければポジティブな交渉姿勢、ビジネス姿勢は崩さない。メディアで批判されてもめげない。
われわれ世界中の人間は、そのモデルとしてビジネス経験豊富なトランプ前米大統領を見てきた。北朝鮮の金正恩総書記との直接会見に臨む直前のインタビューで、「いい結果が出るかどうかはやってみないと分からない」「でも、自分は挑戦したい」と答えた。この積極的でポジティブな姿勢に外交の専門家は「愚か」と批判したが、ゲームチェンジャーの姿せもあった。
アメリカ人のポジティブ思考の由来は西部開拓にあると見られる。そもそもヨーロッパを捨てて新天地をめざしたアメリカ人は、神が準備したパラダイスを求め、西へに西へと開拓を続けた。だが、その道ではヨーロッパの出身国の争奪戦や原住民インディアンとの戦いがあり、開拓は常に命がけだった。
あるのはキリスト教信仰で、自分たちを守る法律の整備も不十分で保安官の存在も心もとない時代に、家族での移動は危険に満ちていた。しかし、引き返して、まさか大西洋を渡ってヨーロッパに帰る訳にもいかず、悲観的になれば死が待っていた。
アメリカでは模範とされるリーダーに昔から旧約聖書に出てくるモーゼが挙げられる。彼はイスラエル民族をエジプトから救い出し、砂漠をさまよい、神が準備したカナンの地に至る旅を続けた。そんな人物が理想的リーダーということだが、それはキリスト教に流れる信仰、希望、愛の精神に支えられている。
だから、難問に遭遇しても退路を断って出発した開拓の道では悲観論は死を招く毒でしかない。結果、希望を持って何とか前に進もうとする。無論、今のアメリカのIT系のリーダーにはリベラル思想が流れており、希望と愛はあっても信仰はない。信仰には高いモラルが要求されるがITの世界は希薄だ。
しかし、希望を持ち続けるポジティブ思考は誰にとっても重要だ。特に今のような深く自省が高まり時代には必要だ。人間は悪い経験をしたトラウマが多いほど悲観的になるといわれるが、環境に対して受け身でなく、退路を断つ決断と選択に自分の意思を確認することも重要だ。
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