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 昨年、ユネスコの無形文化遺産に認定されたフランスのバゲットは、世界中で知られるフランスが誇る国民食のパンです。毎朝、早朝から開いているブランジェリー(パン屋)で買った出来立ての温かいバゲットを家に持ち帰る前に我慢しきれず、ついかじってしまう経験をした人は少なくないでしょう。

 そんなバゲットを提供するブランジェリーが経営難に陥り、閉店に追い込まれる危機に晒されています。理由はウクライナ紛争の影響によるエネルギーと小麦価格の高騰です。これまでも彼らは到底適応できない週労働35時間制や、大型スーパーで売られる大量生産されたバゲットに経営を圧迫される試練を切り抜けてきました。

 多くのブランジェリーは家族経営で、大都市でチェーン化したブランジェリーでも多くは中小企業。ガスや電気代、小麦価格の高騰をしのぐのは簡単ではありません。そのため田舎のブランジェリーから順番に姿を消している始末で、無形文化遺産には寒風が吹き荒れています。

 政府は、ブランジェリー業界の代表を呼び、支援を約束、税金や社会保障税の支払い軽減や延期を検討中です。さらにエネルギー供給業者の代表を呼び、国民生活が危機にあるにも関わらず業界が暴利を貪っているとしてエネルギー価格高騰を非難したりしています。

 2021 年にフランス人がパンを購入する際の基準の調査で、味、伝統的な生産、新鮮さであると回答しています。消費は落ち込んでいるとはいえ、87%の人が家にいつもパンがあると言っています。

 実はバゲットには製法の違いにより伝統的なバゲットとクラシックバゲットがああります。伝統的なバゲットの製造は法律によって管理されており、より具体的には 1993 年 9 月 13 日の法令によって管理されています。

「伝統的なフランスパン」またはこれらの用語を組み合わせた呼称の下で、「その形態に関係なく、製造中に急速冷凍処理を受けていないパン」とされ、言い換えれば、伝統的なバゲットは、冷凍や添加物を使わずに現場で作らなければならないとされています。

 生地は「製パン用小麦粉、飲料水、調理用塩の混合物のみで構成されている」必要があり、発酵時間は 15 時間から 20 時間で、温度は 4°C から 6°C と決められています。一方、クラシックバゲットにはグルテンなど他の添加物が使われることもあり、スーパーの工業化されたバゲットは急速冷凍されています。

 結果的に人気も評価も高いのは伝統的バゲットということになり、パリなどの大都市のバゲットは伝統的バゲットで占められています。現在、バゲットは1本、1ユーロ前後(約135円前後)ですが、メディアはバゲットが1本、1.3から1.4ユーロになっても買うかという調査を行っています。

 フランスではバゲットにハムやチーズ、サラダを入れたサンドイッチを売っています。これもフランス人にとっての国民食ですが、値段はじりじり上昇中です。

 ウクライナ戦争は無形文化遺産に認定されたばかりのバゲットにまで影響を与え、伝統的なフランス人の生活様式まで変えようとしています。