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 ロシアのウクライナ軍事侵攻とその後の長期化は、力で他国に侵略する行為を世界が止められない現実を突きつけられた。しかし、近年のシリア内戦は10年を超え、ヨーロッパの火薬庫セルビア・コソボの対立は再燃している。

 これまで世界はさまざまな危機に直面し、その都度、再発防止の新たなシステム構築に努めてきたが、侵略や内戦問題では効果的なシステムが見当たらない。

 本来、第2次世界大戦終結時に戦勝国によって発足した国連は、発足当初からアメリカが疑問視してきた安保理常任理事国の5か国に中露が含まれていることで、中露の利権が絡めば何一つ決断できない機能不全が続いている。だからといって中露を安保理から排除すれば、孤立し追い込まれる両国が暴挙に出る可能性は高いと見られている。

 結果、他国への軍事侵攻を諦めさせる決め手は見つかっていないし、紛争が長期化した場合は有効な平和的解決方法も見つかっていない。そのため、日々勢力拡大や世界支配を夢見る勢力から、力を行使した方が勝ちという観念を取り除くことはできない。

 その一方で世界は持続可能な発展のための開発モデルを模索している。特に強者が弱者を食い尽くす滅亡の論理を抜け出すために何が必要なのか模索中だ。キッシンジャーは年末の米ウォールストリートジャーナル(WSJ)で世界のリーダー不在に危機感を表明した。それは重要な指摘だろう。

 だが、世界はさまざまな危機に直面し、その都度、その危機を吸収する新たなシステムを築いてきた。特に金融界はリーマンショックやギリシャの財政危機などを経験し、マネーロンダリング、租税回避、不正経理などを防ぐための様々なシステムを構築し、今はデジタル通貨が引き起こす犯罪を防ぐ対策に取り組んでいる。

 金融は国家が生き残り、市民が平和に暮らすための血液と、それを送り込む血管という意味で、まず、綺麗なさらさら血液を作る必要があり、その供給で血管が詰まるような事態は防がなければならない。どこか一か所に血液が溜まり、循環しなくなれば全体が弱体化する。

 そのため、日頃から金融界はストレステストを繰り返し、不測の事態に備えてリスク回避のシステムを進化させている。金融に比べれば気候変動問題は緊急事態だが、先進国と途上国の対立が消えず、具体的な罰則を伴った数値目標も設定できていないのが現状だ。

 そこで地球崩壊論者と楽観論者の意見が対立している。『世界の崩壊はおそらく起こらないだろう』の著者で知られるフランスの未来学者、アントワーヌ・ブエノ氏の見方は興味深い。同氏はフランス上院顧問でSDGs委員会の作業部会の顧問をしており、崩壊論者でも楽観論者でもない「希望を持ち続ける」未来学者と言われている。

 仏週刊誌レクスプレスはブエノ氏の主張を「気候、出生率・・崩壊が(おそらく)起こらない10の理由」というタイトルで紹介。多くのリベラルな環境保護活動家が反権力、反大企業、自然回帰の論を展開する中、ブエノ氏は、環境危機回避の永続的解決策の中から「脱成長」を退けているのが特徴だ。

 一方でブエノ氏は、特に気候変動の緊急事態に直面した場合、厳しい道が待ち受けていることも認めている。その上で歴史上、文明が滅亡した歴史はほんの数回しかなく、2008年のリーマンショックは1929年の世界大恐慌を上回る規模だったが、グローバル化したシステムが機能し、世界経済は強力な回復力(レジリエンス)を示したと指摘する。

 化石燃料や金属資源の不足は代替エネルギーや技術の進歩で代替でき、宇宙資源の採掘も遠い将来ではなく、食糧問題では地球温暖化で赤道に近い地域の農業に壊滅的被害を与える可能性がある。一方、年間通じて寒冷で広大な凍土が広がるロシア、カナダ北部、スカンジナビア半島北部などで、温暖化で農業が可能になる可能性があり、農作物の生産を増やすかもしれないとしている。

 人口増加も今後、途上国での産児制限の避妊方法が浸透していけば出生率を下げることができ、2080年前に人口増加を単純に3分の1に抑えるだけで、人為的な温室効果ガス排出量を約10%削減できるという研究もあることをブエノ氏は指摘している。

 人類が産業革命で産業化社会に突入し、空気を汚し、資本主義で貧富の差が広がったことを批判し、脱成長社会の実現、原始的世界への回帰を主張する人は後を絶たないが、産業化社会、資本主義の欠陥を本気で論じる場は多くはない。理由は前提となる人間観そのものにバラツキがあるからだ。

 いずれにせよ、ポジティブであり続けるためには、その根拠が必要。さらに現状を嘆くより未来に期待し、クリエイティブであり、努力し続けることも重要だろう。