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 米ウォールストリートジャーナルは、ゴーン逃亡助けた米国人、日本の服役は「拷問」という日産のゴーン元会長の国外逃亡を助け、日本で有罪が確定し刑期を終えた米国人にインタビューした記事を掲載した。記事中、テヘランで拘留された米国人の手記を獄中で読んで、嫉妬したというのが印象的だった。

 インタビューに応じたのは逮捕されたテイラー親子の息子のピーター・テイラー氏の方で、父親は帰国した後、メディアのインタビューに応じていない。息子の話した内容は、あまりの日本の刑務所のひどい扱いは拷問に等しく、その怒りから何度でも再犯を侵す気分だと語った。

 内容は「服役中に屋外で過ごした時間が全部で15時間に満たなかったため、米国に戻り釈放された後、ビタミンD欠乏症に苦しんでいた。体重は約40ポンド(約18キロ)減り、つま先に感染症が起こったが、刑務所の医療スタッフが治療を施してくれなかったため、足を引きずって歩いていた」というものだった。

 ゴーン被告をプライベートジェットで運んで日本を脱出させた犯人隠匿の罪で起訴された米陸軍特殊部隊(グリーンベレー)の元隊員マイケル・L・テイラー被告に懲役2年、息子のピーター被告に同1年8カ月の実刑判決を東京地裁は言い渡した。

 日本の法務省矯正局は、ピーター氏が指摘した実態については調査を約束し、関係者の人権意識に問題があれば改善するとした一方、「刑務所が厳しい処遇、規律を維持しながら改善更生に向けて指導をしていく場だという基本的立場を維持すると述べ、それは外国人から見ると、とても厳しく映るのだろうと語った」というコメントを紹介した。

 一方、名古屋出入国在留管理局に収容されていたスリランカ人の女性が死亡した問題で、出入国在留管理庁は、女性が医療機関での診察を求めても現場の職員が必要ないと判断するなど、関係職員の人権意識欠如が表面化した。施設内での非人間的扱いの映像も公開された。

 同施設の元職員の証言では、日本側の基本スタンスは帰国を受け入れさせることにあるので、本人が滞在を諦めるよう酷い扱いをするのが暗黙の了解だったとメディアに証言している。

 最初のテイラー氏の事例は、日本側としてはアメリカ人受刑者が考える人権重視の処遇は罰を与えることにならず、甘えた不当な批判というかもしれない。スリランカ人女性の事例は不法滞在した本人が帰国を拒んだのはおかしいという意見もあるだろう。

 同時に日本がこれらの事例で国際的評価を下げる可能性も指摘されている。私個人は国際結婚している事情から日本だけでなく、フランスの入管制度とも関わる実体験を持つ。さらに治安分析官を25年も続けていることで、犯罪の刑罰の在り方にも一般人よりは知識がある方だと思う。

 その観点からすると、2つの事例には共通した問題が潜んでいると見られる。それは再犯防止や更生の在り方、2度と不法滞在させないための施策の基本的考え方だ。諸外国でも自国民と外国人に対する処遇は異なるケースは多いが、特に権威主義の国、閉鎖的な国は外国人の扱いが酷いのは事実だ。

 たとえば今、世界でも問題になっていることの1つは、犯罪者no
再犯率をいかに抑えるかということだ。刑罰による更生効果の重要性は高まるばかりで、死刑や終身刑を除けば、服役後の社会適応、特に再犯を犯さないための更生は極めて重要だ。

 ところがそれはあくまで自国民中心で、日本の刑務所を出てからも日本人として生きていくことが明らかな受刑者に対するのと、刑期を終えれば国外に出る受刑者へのスタンスは、建前上は隔てがなくとも、現場の刑務官が異文化理解、異文化対応などのスキルを持つわけではないので厳しい。

 圧倒的権力を持つ刑務官の差別的態度はエスカレートしやすい。国によって更生効果を高める方法は異なる。日本人と同じコンテクストを持たない外国人の罪意識も異なる。

 人権という言葉も欧米でいわれているキリスト教を背景とした神の前に全ての人間が絶対的価値を持つという基本的人権思想と、キリスト教の影響のない日本の人権思想には隔たりがある。

 特に罪人に対して、更生は昔ながらの厳しさが効果的という考えに加え、どうせ釈放後、日本に留まらないとなると、本音は2度と日本に来てほしくないとの思いも働いて非人間的扱いになる可能性も高い。

 そこで気になるのが、世界が納得するような刑罰の在り方が模索されているかどうかということだ。たとえば極端な例だが、北欧のように刑務所内が非常に心地よく、受刑者の心を幸せ感で満たすことで釈放後の再犯率を世界的に見ても非常に低い水準に抑えている例もある。

 そこで問われるのは普遍性であり、誰もが納得するあり方を模索することで日本的やり方だけを正当化する独善性は、今の時代には役に立たない。実際、テイラー親子にしても、そもそも特技を買われてゴーン日本脱出を手伝っただけで罪の意識は極めて薄い。

 それに彼らがいう拷問のような刑務所生活で罪意識が明確になるかといえば、少なくとも今回のインタビューで再犯の意欲が増したように答えており、逆効果だったことは明らかだ。方法論を論じる前にそもそも「全ての刑罰の目的は更生にある」という認識が徹底していなければ刑罰の意味はないことになる。