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   ワルシャワでロシア侵攻に抗議するデモ

 ウクライナへのロシア侵攻以来、ウクライナ難民を最も受け入れてきた隣国ポーランドは、欧州連合(EU)の対ロシアの東の最前線です。今はEUと北大西洋条約機構(NATO)の加盟国ということでロシアの脅威に強気の姿勢をとっていますが、過去にはロシアとドイツに挟まれ、絶滅の危機に晒された経験もしています。

 ポーランドはヨーロッパで最も親日の国といわれ、日本語熱もヨーロッパで最も強い国です。日露戦争で宿敵ロシアに小国日本が勝ったこと、シベリア収容所送りの政治犯やロシア軍兵として前線で戦わされたポーランド人が捕虜となり、日本で厚遇されたこと、その後、シベリアで餓死寸前のポーランド人孤児たちを救い出し保護したことなどを、今でもポーランド人は忘れていません。

 それに、その当時救出されたポーランド孤児2人が「命のビザ」で約6,000人のユダヤ人らの救出を助けた杉原千畝・リトアニア共和国在カウナス日本領事館領事代理の秘書だったことは、あまり知られていません。

 ポーランド人にとっては大国ロシアと戦った極東の小国、日本が不屈の精神でロシアに勝ち、なおかつ捕虜になったポーランド人を厚遇し、死にかかったポーランド孤児を救出して日本で健康にして帰国させた行為に対して、今も感謝の念を持っているわけです。

 そんなポーランドが今回、ロシアに侵攻された隣国ウクライナを放っておくはずもありません。ポーランドの作家、ボレスワフ・プルス氏(1847〜1912年)は日本人の特質について「個人の尊厳といった偉大なる感性を持つ民族」と指摘しました。

 ポーランドはEU加盟国の中でも非常にカトリックの強い国です。キリスト教は本来、絶対的価値を持つ神が創造した人間は、社会的地位や男女の差、金持ちかどうかなどに関わらず、1人1人に絶対的価値があるとの考え持ち、それが基本的人権思想を生み、人道主義を生んだことは知られています。

 ところがキリスト教徒でもない日本人に「個人の尊厳を守る精神」が深く根差していたという話は、キリスト教の西洋人には不思議な話です。たとえば家族を大切にする国は世界に山のようにありますが、他国人を助けた過去はポーランド人だけでなく、トルコにも残っています。

 明治天皇に謁見にしたトルコの親善使節団の船、エルトゥールル号が帰途で台風に遭遇し、紀伊半島の突端、串本町大島樫野崎沖で遭難した時、村人が不眠不休で波間に漂うトルコ人を救出した美談をトルコは忘れていません。

 ポーランドにせよ、トルコにせよ、5,000キロ以上離れた異文化の異国ですが、わがことのように助けた歴史は、人権や人道的観点から高く評価されるものです。無論、今の日本人にそんな心が残っているかは疑問ですが。

 今、対ロシアのEUの東の前線にあるポーランドやハンガリーは、EUが定める法律とは異なる法律を運用しているとして敵視されています。中身はたとえばLGBTに対する厳しい姿勢です。さらに個人より家族重視の価値観です。その姿勢はキリスト教から来ているものですが、今のEUの建付けは世俗主義の個人の自由と人権最優先のリベラリズムです。

 これに対して旧ソ連邦だったポーランドやハンガリーがルベラリズムを警戒している背景には、彼らが無神論の共産主義の圧政の中でキリスト教信仰を守ってきた筋金入りの信仰者だからです。一方、EU最大の大国ドイツのキリスト教民主同盟のメルケル前首相は、西側最後のキリスト教民主主義政治家といわれています。

 英国では、2021年に実施された国勢調査の結果、英イングランドとウェールズで「自分はキリスト教徒」と答えたのは46.2%で10年前の調査より10ポイントも下がり、半数を割り込んでいます。フランスでは教会の建物が毎年、数百棟単位で民間に売却されています。

 近年ヨーロッパで台頭するポピュリズム政党も、あからさまにキリスト教を持ち出す政党はほとんどありません。そんな中、キリスト教の伝統的価値観を守ろうとするポーランドやハンガリーがフランスやドイツ、イタリアから敵視されているのが今のヨーロッパです。

 私から見れば、カトリックの国の人々が仏教や神道を信じる日本人を尊敬し、絆を保っていることの方が貴重に思えます。ヨーロッパ西側諸国には、何でもありのリベラリズムによる腐敗が進み、深刻です。それも過激なリベラル勢力が持つ違いを認めないキャンセリングカルチャーの浸透には恐怖を感じます。