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 アメリカを公式訪問中のフランスのマクロン大統領は、国連教育科学文化機関(ユネスコ)が11月30日に、フランスパン「バゲット」を無形文化遺産に登録したと発表したのを受けて、バゲットを握りしめて「世界がバゲットを羨ましく思っている」と自慢しました。

 登録内容は「バゲット作りの伝統とそれをめぐる生活習慣」で、マクロン氏は「私たちの日常生活における250グラムの魔法と完璧さ」と自画自賛しました。個人的に世界中を旅して食べたパンの中で、バゲットは群を抜いて味わい深いと思っているのでうれしい知らせでした。

 早朝、パリ市内の近所のパン屋(ブランジェリー)で、まだ暖かいバゲットを買って、家にたどり着くまでに我慢できず、一口かじる香ばしい味わいはなんともいえません。フランス生活の至福の時です。大きな陶器のボールになみなみと注いだカフェオレにバゲットを浸して食べる朝食も満足度の高いものです。

 南ヨーロッパは習慣として朝食で卵やハム、チーズは一般的に食べず、せいぜいバゲットにバターやジャムを塗る程度です。後は果物やヨーグルトを食べる人もいます。昔は高級ホテルでもフランスの場合は質素でしたが、今は日本人やアメリカ人、中国人の旅行客が多くバイキング形式も増えています。

 とにかく、一汁三菜が基本の日本とは大違いで、母親が台所でまな板でキュウリを切る音でみんなが目覚めるなどという習慣はありません。だからフランスでは主婦が朝食の準備をする習慣もありません。コーヒーメーカーで作られた大量のコーヒーを自分で注いで、バゲットを各自が2つわりに切ってトーストする程度です。

 ユネスコのオードレ・アズレ事務局長は、バゲットを登録することは「フランス人の生活様式を称えるもの」であり、「バゲットは毎日の儀式であり、食事の構成要素であり、分かち合いと陽気さと同義だ」と述べ、「これらのスキルと習慣が将来も存在し続けることが重要だ」と述べました。

 フランスでは1日約1,600万個のバゲットが生産されていると言われますが、工場で冷凍の生地から大量生産されたバゲットが売られる大都市周辺の大型スーパーの台頭と、健康ブームで人気の高まるサワードウに押され、家族経営のブランジェリーは毎年平均400軒も店を閉めている状況です。

 フランス全土に55,000軒あったブランジェリーは現在、35,000軒に減少しています。原因の1つは大手スーパーでまとめ買いし、家で冷凍する人が増えているからです。忙しい朝にわざわざ近所のブランジェリーにバゲットを買いに行く習慣は衰退しているわけです。

 この問題は10年以上前から問題視され、伝統的製法で作られたバゲットについて特別な認定証を与えたりしていますが、それでもブランジェリーの衰退は止められないのが現状です。今年はウクライナ紛争で小麦粉の価格高騰、エネルギー危機でブランジェリーの経営を圧迫しています。

 バゲットの由来は諸説あり、ナポレオンが注文したパンが、兵士が持ち運びしやすかったからという説、1830 年代のオーストリアのパン屋がその原型を作ったという説もあります。いずれにせよバゲットという名が正式に命名されたのは、1920年とされ、20世紀半ばまでに全国に広まったそうです。

 パン職人連盟のドミニク・アンラクト会長は「バゲットは、小麦粉、水、塩、酵母、そして職人のノウハウです」と述べ、政府によって価格が抑えられていることもあり、富裕層から貧困層まで食べることができるフランスの平等精神が表れている象徴的存在と指摘する人もいます。