Elon_Musk_at_a_Press_Conference

 「イーロン・マスク氏が新しいオーナーになったツイッターは、ヨーロッパの新たな規則を守らなければ、禁止される可能性がある」とヨーロッパの複数のメディアが伝えました。これはマスク氏にとって大きな挑戦であり、マスク流の言論の自由は厳しい試練に直面していると言えます。

 欧州連合(EU)のティエリー・ブルトン委員は11月30日、「SNSサイトは、コンテンツの有害の有無のモデレーション、偽情報、ターゲットを絞った広告などの問題に対処する必要がある」と述べました。

 EUがマスク氏に直接伝えた理由は、2023年よりSNSのサービスに対して新しい法律が施行されるからです。EUは、世界で影響力を拡大してきたビッグテック(GAFAM)に対して広範な規制を課す「デジタル市場法(DMA)」を2023年に施行する予定です。

 企業が規則に違反していることが判明した場合、企業は世界の売上高の最大 6% の罰金、または深刻な違反が繰り返された場合は運営の禁止に直面することになる。ブルトン氏はマスク氏との会談後の声明で、マスク氏がツイッターにDMA法遵守の準備をさせると約束したとして歓迎する意向を示しました。

 マスク氏が手にしたツイッターは今後、透明性のあるユーザーポリシーを実装し、コンテンツのモデレーションを大幅に強化し、言論の自由を保護し、偽情報に断固として取り組み、ターゲットを絞った広告を制限する必要があるとして、大きな作業が待ち受けていることが明確になったと報じられています。

 ブルトン氏は「これら全ての作業には、量とスキルの両面で十分な人工知能(AI)の活用、人的資源が必要。これらすべての分野で進歩することを楽しみにしており、ツイッターの準備状況を評価するつもりだ」と述べました。EUは、より広範な監査に先立って、2023年に「ストレステスト」の実施を予定しているとしている。

 ブレグジットした英国もオンライン安全法案を議会で審議中で、英BBCはオンラインで自殺や自傷行為のコンテンツを見た後に命を絶った10代のモリー・ラッセルさんの例などを紹介しています。法案審議が熱を帯び、特に大規模なネットプラットフォームから「合法的だが有害なコンテンツ」を削除する措置が法案から除外されたことで、ラッセルさんの父親を含む被害者の親が激怒しています。

 SNSが垂れ流してきた有害サイトは、未成年者を死に追いやる決定的悪影響をもたらすことを初め、世論を間違った方向に動かし民主主義に決定的ダメージを与える内容まで広範に及びます。問題発生の理由の1つは、アメリカ発のGAFAM創設者たちの稚拙さです。

 規制の目的は、犯罪行為やわれわれの実生活で常識として受け入れられないものをSNSから排除することですが、そこには大人と未成年者の境界、言論の自由、企業活動の自由や公正さの規制など、さまざまな問題が絡み合っています。

 ただ、EUが恐れていることの1つは、SNSが言論をミスリードした結果、たとえば、ポピュリズムが爆発的に拡大したり、EU加盟国間を分断するヘイトスピーチが拡大し、ガバナンスが不可能になることです。その兆候は選挙がある度にすでに表面化しています。

 EUは米大統領選でトランプ前大統領支持者が連邦議会に乱入した姿を見て、ヨーロッパでもSNSが1部の過激な勢力によって悪用されれば、民主主義を破壊する言論が形成されるリスクは十分あり得ると見ています。

 過去に全体主義の嵐が吹き荒れ、共産主義によって東西が分断された経験を持つヨーロッパは、言論が分断と対立をもたらす悲劇を身を持って体験しています。未成年者への悪影響もさることながら、SNSの政治利用が深刻な結果をもたらすことをEUは無視できません。

 さらに近年のイスラム過激派によるテロの頻発にも、SNSによるイスラム聖戦主義の拡大、テロリストのリクルートへの利用は目を見張るものがあります。これも国家と社会に決定的ダメージを与える無視できない問題です。無論、ヨーロッパはキリスト教民主主義の衰退とともにモラルというブレーキが利かない状況にあります。

 ヨーロッパは今、言論の自由、企業活動の公正さを守りながらも、21世紀の新しいコミュニケーションツールを有効活用するため、そこに忍び寄る有害性をどう排除するのかに取り組んでいます。これはツイッターを手にしたマスク氏にとって大きなストレステストになるでしょう。