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 温暖化対策を推進するフランス政府は、高速道路走行時の最高速度引き下げの検討を始めたと仏メディアは伝えている。理由は自動車の高速走行によって温暖化ガスのCO2の排出量が左右されるからだ。

 現在、乗用車の高速道路の最高速度は130km/hだが、これを110km/hに下げるだけで、燃料消費は6%から40%の幅で削減でき、温室効果ガスが最大20%削減できることが分かっている。

 フランスは高速道路が整備され、長距離移動する車は大型トラックから乗用車、2輪車まで、幅広く利用され、人の移動に占める車両による道路利用率は8割を超え、鉄道の約12%を大きく上回っている。この数年、鉄道移動が奨励され、列車やバスを使い2時間半以内で移動できる国内線のルートについて、フライトを禁止する法律が2022年4月より施行されている。

 高速道路を除けば、フランスの大都市で自動車の速度制限を強化するルール変更が進んでいる。南西部の都市ボルドーでは2022年に入り、域内ほぼすべての道路における自動車の速度制限を、従来の50km/hから30km/hに引き下げる措置を施行。

 引き下げの目的は、道路の安全性向上や、騒音・公害の低減、また自転車道のためのスペース確保などとしている。同市は施行にあたり、ボルドー市内における自動車の平均走行速度は14km/hで、市内を移動するには平均15km/hの自転車のほうがはるかに速いと指摘している。また、2050年までに温室効果ガス排出量を6分の1にしなければならないことなど、必要性を説明している。

 フランスでは、パリ市内では夏以降、市内全域で30km/hに引き下げる措置が施行され、違反すると135ユーロの罰金が科されている。リール、ナント、グルノーブルなど、約200の都市が、主要な市内道路における制限速度の引き下げを実施しており、車道の1部を自転車専用道路にする措置も進められている。

 フランス南部モンペリエ市の交通担当副市長によれば、速度制限を強化するだけで、速度を直接的な要因とする死亡事故が70%減少すると指摘している。

 一方、県道などの一般道の最高速度は90km/hから80km/hに引き下げられている。フランスでは速度が死亡事故の主な原因となっている(31%)。死亡事故が最も頻繁に発生する道路網は、中央分離帯のない双方向道路で交通事故の55%とされている。2018年7月1日に、交通事故死傷者数が最も多いこれらの道路で最大速度が90km/hから80km/hに引き下げられた。

 国家交通安全評議会の専門家委員会は2013年の報告書で、中央分離帯のない双方向道路での最高許容速度を時速80kmに引き下げることで年間300〜400人の命を救うことができるとの見解を出していた。この措置によって救われた命は多く、研究によれば20年間で速度の低下と事故の数との相関関係が明らかになっている。

 10年前は速度と事故との関係が注目されたが、今は事故だけでなく、温室効果ガス削減において、特別な政府支出なしに実現できる有効な手段として注目されている。

 実は高速道路の最高速度引き下げについては、マクロン第1次政権の2020年にボルヌ環境相(当時、現首相)が、130km/hに制限されている高速道路の最高速度を110km/hまで引き下げる法案を提出したが、合意が得られず、取り下げた経緯がある。

 政府は今再度、高速道路の最高速度を130km/hから110km/hに引き上げることを計画している。いくつかの世論調査でドライバーの半数が110km/hに引き下げることに賛成していることが明らかになっている。110 km/hに切り替えると、年間平均で125ユーロの燃料を節約することも可能というデータもある。

 シミュレーションでは250kmの移動では、110km/hに切り替えると移動時間は21分長くなり、それほどの違いはないとしている。大型トラックに関しては現在、高速道路では90km/h、優先道路では80km/hで、今後、高速道路でも80km/hに引き下げるかどうかは、経済活動への影響を考慮して決められる可能性が高い。

 今回の熱波襲来で干ばつ被害、森林火災が拡大したことを受け、制限速度引き下げの議論は加速が予想される。さらにEV化が進む中で、自動運転が普及することで、速度制限をコントロールしやすくなる可能性も高まっている。