Jordan Bardella

 今月5日、右派・国民連合’(RN)は党集会でジョーダン・バルデラ氏(27)を次期党首に選出した。同党はどこに向かおうとしているのかは興味が尽きない。なぜなら、党首だったマリーヌ・ルペンの父親で極右・国民戦線(FN)創設者、ジャン=マリ・ルペン氏とは30年前に食事をしたことがあるからだ。

 さらにかつて国民議会議員、欧州議会議員を務め、他界したFN選出議員とは友人の仲だった。今や欧州最大の右派系政党となったRNの動向は、フランスという国を知る上で興味が尽きない。今年、RNは2つの国政選挙で過去にない飛躍を遂げ、移民排撃の過激で極端な極右のイメージを拭い去った。

 FNからRNの一連の40年間の歴史をみると、政治がいかに生き物であり、その時代の変化を反映する動きをしてきたかが分かる。むしろ、日本の自民党歴史の方が世界的に見れば異常というしかなく、度を越した安定へのこだわりなのか、それとも民主主義の本質が理解されていないのか疑問を感じる。

 RNは今年4月の大統領選で、マリーヌ・ルペン党首が決選投票で過去最多の得票率を得て、マクロン現大統領に迫った。5年前の大統領選の決選投票を闘った同氏、2002年の同決選投票でシラク氏を相手に戦った父ルペン氏は、極右の大統領はありえないという世論に押され、得票率は伸びなかった。

 しかし、今年の決選投票ではルペン氏はマクロン氏と互角に戦い、仏メディアもRNは今や極右政党とはいえないと指摘した。さらに6月の下院選ではRNは過去最高の89議席(前回8議席)を獲得し躍進を遂げ、自他ともに認める政界の右派及び中道右派、中道勢力の1角を占める政党に成長した。

 今回、新党首に選ばれたバンデラ氏は、実はフランスで最も移民居住率が高く、治安の悪いパリ北郊外セーヌ・サンドニ県の出身。自身の家族はイタリア出身で、母方には北アフリカ・アルジェリア系移民のルーツを持つ。移民排撃の急先鋒といわれる極右の系譜からは考えられない人物だ。

 それもフランスでは右派でも左派でもエリート政治家や高級官僚を排出する国立行政学院(ENA)の卒業生が多い中、大学卒業学位もない中退組だ。さらにパリ西郊外のブルジュワが住む父、ルペン氏以来の居城があるサン・クルーに出入りし、ルペン家と親交を深めたことが党首の座を射止める有力な要素だったと批判までされている。

 しかし、5日の党首選では36000人の党員のうち、71・5%の25000人以上が投票に参加し、バルデラ氏は圧倒的な22130票を獲得し、党首に選出された。ルペン氏のこの20年間の戦略は庶民生活を最重視するもので、白人、金持ち、王政復活主義者、ネオナチなどは視野になかった。

 アラブ系の血まで入った移民の極貧層が暮らす地域出身で、父親は中小企業経営者、母親は保育園支援機関の職員、アルジェリア移民の祖父は建設現場の労働者だった。その背景の幅広さは、今のフランスを反映している。白人至上主義や民族主義は右派でさえ、影を潜めている。

 それも移民の味方は従来、左派が圧倒的だったのが、バンデラ氏の登場は右派にも移民系の血が入った人物がトップに立つ時代の到来を意味している。政権政党をめざすなら、バンデラ氏のような背景を持つ人物は政治的インパクトがあるとも見られる。

 外国人から見れば極右とか右派といえば、バリバリのカトリック教徒の白人を思い浮かべるが、RNの新党首から見えてくるものはフランスの今を象徴しているといえそうだ。英国の保守党党首がインド系なのも欧州の社会変化を表している。