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 かつて世界中に植民地を持ち「陽の沈まない国」と呼ばれた大英帝国は、最大の植民地インドを失った後にエリザベス女王が戴冠式を行い、最初の首相任命式を行ったのはチャーチルだった。それから70年が経ち、トラス氏を任命後、女王はこの世を去った。

 女王は歴史の生き証人だったが、残念ながら彼女が見た英国と世界についての詳細な自身が著した書物がない。彼女が女王になって以来、国家としてはじりじりと存在感が薄まり、衰退を続けてきた。無論、その衰退は、金融や科学、文化芸術の話ではなく、政治的衰退だったし、彼女のせいではない。

 2016年6月、英国民は閉塞感が漂う欧州連合(EU)を抜け出し、かつての国の力を取り戻すべく国民投票でブレグジットを支持した。かつての清教徒革命の時にような純粋な動機ではなかったが、EUと共に老衰することを恐れたのは確かだ。

 今、スナク政権の閣僚にはEU離脱を支持した政治家が多い。彼らはどんなに経済が悪くても、エネルギー問題が深刻化しようとも、離脱の正当性を証明するための踏ん張りどころと情熱を傾向けている。にも関わらず、スナク政権の将来をポジティブに予想する専門家はいない。

 英国民の中には、保守党が12年間、政権を掌握し、その間、キャメロン、メイ、ジョンソン、トラスと4人の首相が辞任する中、長期政権のデメリットを指摘する有権者は少なくない。パブリックスクールでラテン語教師を務める保守党支持の私の友人でさえ「もう政権は変え時だ」といっている。

 長期政権の弊害の一つは、強いリーダーシップをとれる政治家が育たないことだ。与野党が激しく入れ替わるフランスから見れば、いつ政権をとっても、すぐに政策実現に動ける準備が整っており、肝心の政治指導者たちも、その機会を虎視眈々と狙っている。

 今も英保守党は、熟練の政治家は誰も前に出ようとせず、「有能な若者にやらせればいい」という態度だ。しかし、若い世代の政治家の中に官僚向きの有能な人材はいても、大物政治家は見当たらず、選挙もないので緊張感もない。誰もが頭に置くのは不祥事を行って失脚しないことだけだ。

 英国は学歴も偏っている。オックスフォードかケンブリッジ卒の肩書が、まるで必須のようだ。大学で鍛えられたのは舌戦での強さだが、政治家には国と国民を思う心が必要だ。そもそも階級社会の英国の高学歴者に貧困層はいない。

 階層ごとに分断された長い歴史を持つ英国の硬直化を破壊するITエリートは、決定的に英国社会を変えるには至っていない。

 経済協力開発機構(OECD)によれば、英国の人口1人当たりの国内総生産(GDP)は、2021年に購買力調整後ベースでドイツ、フランス、アイルランドより低く、OECD加盟国の平均をも下回っている。英庶民に生活苦の危機感があるのは当然だ。

 ヨーロッパで最もリベラル化が進んでいるといわれる英国で、ジョンソン元首相の例を待つまでもなく、政治家の行動規範、道徳性は明らかに落ちている。そのことが政治家や外交官の人材不足を加速させているように見えるのは私だけだろうか。

 同じことが日本にもいえる。政治家が信念を失えば、何の価値もない。散々選挙で世話になった宗教団体が社会問題化すれば、「今後一切関係しない」といって逃げ回っている。本来なら「自分の政治信念と共感する団体だったから協力関係にあった。ただ残念ながら違法行為を繰り返し犠牲者が出た以上、今後関係するわけにはいかない」と答えるべきだろう。

 自民党議員は自分たちだけでは共産主義勢力と戦えない中、手伝ってもらっていた団体だった恩義は、しっかり認めるべきなのに、マスコミ報道に押されて、そういう言及もない。高学歴でも政治家としての心、信念、愛国心、覚悟、そして行動規範が疑われても仕方がない。