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 日本での注目度は低いのだろうが、26日の仏大統領府でショルツ独首相を出迎えたマクロン仏大統領はメディアの前で満面の笑みを浮かべたが、両者はかつてない緊張状態にある。両国は今でも欧州連合(EU)及びユーロ圏で1位と2位の大国であり、ウクライナ戦争で揺らぐEUのけん引役だ。

 仏政府スポークスマンのヴェラン氏はは記者団に対して「この仏独エンジンは存続させるつもりだ」と述べたが、内情はEUへのコミットメントという意味では、最もEUへの支出の多いドイツより、フランスの方が強い。

 ドイツはいつもEU分担金の額を強調し、今年のウクライナ戦争では地政学的な危険な状況や過去の20世紀の大戦の記憶が完全に消えていないことが自国優先の理由と言い訳してきた。だが、日頃、忍耐強いフランスも危機感を感じている。このままでは両国の結束が怪しい状況だ。

 防衛、エネルギー、ビジネスへの援助、EU 拡大など話し合うテーマは多い。だが、26日の首脳によるワーキングランチも同日に予定されていた両国の恒例の関係閣僚理事会が無期延期になる中で開催された。なぜなら両国は今、反対の方向に進みつつあるからだ。

 この状況に強い懸念を抱いているのはフランス側で、ウクライナ戦争が欧州が描いていた地政学的ルールをロシアによって破壊され、もはやドイツは欧州のメインプレーヤーで、フランス及び他の西側EU諸国も離脱した英国も傍観者になりつつあるからだ。英国は独自の外交を展開できるが、EUはそうはいかない。

 EU統合・深化のけん引役だった仏独は、過去に両国の閣僚が参加する対話をくり返してきた。それはメルケル氏の16年、その後、昨年暮れに引き継がれたショルツ政権でも維持されていたが、ウクライナへのロシア侵攻から8か月で状況は大きく変わった。もはや協議する共通点が見えなくなったのが理由だ。

 無論、ドイツにしてみれば、もはや戦後は終わっており、ウクライナへの敗戦以来控えていた外国への武器供与政策を転換した。まずは国を守るために財力に物を言わせ、巨額の軍再生予算を決定し、ロシア産天然ガスへの依存度を下げる一方、国内産業を守るための巨額の支援資金を決定している。

 野党で常に政府批判をくり返してきた反戦、反核の闘志、ドイツの緑の党は連立政権に参加し、今やウクライナへの武器供与が遅れているとショルツ氏を批判し、原発の停止延期も認めている。その意味でもドイツ政治は戦後、最も大きな転換点にある。

 結果、ドイツは東からはロシアの脅威に晒され、西からはフランスの圧力を受けている。分担金が最大のドイツは、ギリシャの財政危機当時、メルケル首相は嫌われ役でもギリシャ救済の先頭に立った。シリア大量難民受け入れでも国内の反対を押し切って積極的に関与した。

 ところが、ウクライナ戦争で状況は一変し、日本同様、金で済ませてきた外交は通じなくなり、安全保障分野で他国同様、あるいは地政学的にはそれ以上の関与を迫られている。

 ショルツ氏の考えをマクロン氏が強く懸念していることは今や誰もが知っている。仏日刊紙ル・フィガロ紙は社説で、ライン川を越えた関係の「氷河期」と呼び、それは「重大な地政学的変化の結果であり、ずっと前に始まった大陸シフトであり、それは世界を変革する運命にある」と書いた。

 フランスの政治アナリストは、この変化の本質は、眠っていた巨人ドイツが、ますます危険性が増す地域で変化を強いられる夜明けに差し掛かっていると分析している。

 フランスは第2次世界大戦で領土の半分をナチスドイツに占領され、解放後は忍耐強くEUの統合・深化という共通の目標を共有し、ドイツ封じ込めと同時にドイツの理解者であり続けた。その意味で今回の変化はフランスに大きな葛藤をもたらしている。なぜなら今でもドイツに対する不信感が消えたわけではないからだ。

 今回も天然ガス価格の上限を設ける協議で、ドイツは協力的ではなく自国優先で保身に走っているように見える。ショルツ氏は「EU最大の分担金を払っているドイツを安易に批判しないで欲しい」というが、フランス人にはその態度そのものが危険な兆候とも映る。

 ドイツはヨーロッパにあって、戦争の贖罪意識を脱し、これまで以上に自己主張するようになった。最近、影響力を持つドイツの政治家が「戦争が1段落したら、またロシアからのガス輸入を再開すればいい」と発言し、波紋を呼んだ。ショルツ首相は3期目に入った中国の習近平国家主席に会うため北京訪問に意欲を見せている。

 封じ込められていたドイツのナショナリズムが目を覚まし、他の西側諸国とは異なる文脈を持つドイツの発言力が増すことにフランスは苛立っている。