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 日本は今、32年ぶりの円安で1ドル150円台に突入し、日本人の外国旅行を難しくし、輸入も苦戦状態にある。その一方で円安によるインバウンド景気は急上昇し、今こそ日本を旅行するチャンスと注目され、加えて日本企業も輸出で収益を伸ばし、外貨獲得のチャンスとなっている。

 コロナ禍明け(本当はヒタヒタと感染は拡大しているが)で、どこの国でも人手不足が深刻だ。とりわけ、コロナ禍で最もダメージを受けた観光や飲食などのサービス業では人材確保が大きな課題。アメリカでもヨーロッパでも状況は同じで優秀な人材の争奪戦が始まっている。

 とはいえ、全世代に対して求職者に朗報というわけではない。基本的にはDX時代に適応し、結果を出せるのは若い世代ということになる。米ウォールストリートジャーナルなど、いくつかの経済紙が指摘しているのは、雇用者側のコロナ禍後のアピールにワークライフバランスがあることだという。

 ヨーロッパでも、たとえばフランスでは、好きな時間に好きな場所で働ける職場に人気が集まっている。リモートワークの定着で、すでに大都市を離れたフランス人は多い。もともとワークライフバランスを重視してきたフランスだが、無論、会社の業績や将来性は求職者の選択条件の上位にあるが、働き方はさらに重要だ。

 私の周辺のフランス人は、何人もパリを脱出し、新しい仕事と生活を始めている。甥っ子のダビッドは大手建築会社で設計を担当していたが、最近、西部ブルターニュのヴァンヌに拠点を置く建築マネジメント専門会社に転職し、500坪の庭のある1軒屋に引っ越した。

 彼はパリ郊外に自分で設計した1軒屋を1年前に建てて住んでいたのが、すでに建てた値段より高額で売却し、ヴァンヌに移った。義弟のミカエルはパリの大手コンサルティング会社の管理職だったが最近、南仏の会社に転職した。パリ郊外の高級住宅地にあったアパートを売却し、南仏ではビーチの近くの広い1軒屋に住み、毎日ビーチにいっている。

 転職条件には当然ながら、より短い労働で高いパフォーマンスを出す生産性指標が企業を選ぶ基準となる。その一方で休む権利を尊重する企業が優秀な人材を集めている現象は、コロナ禍後に加速している。アメリカや英国より安定を求めるフランス人だが、コロナ禍を経験し、随分、変化への耐性が身についたと見られる。

 報酬はいいが、無理な引っ越しを強いるような会社は敬遠される。世界広しといえども、会社や組織に仕えるメンタリティーを持つのは日本だけというのが私の経験から得られた結論だ。本人への打診もなく、一方的に転勤を言い渡されたり、得意でもない仕事を押し付けられたりしても、じっと忍耐する習慣が身についている日本人を「思考停止」などと外国人は見ている。

 今ブームになっている持続可能な開発目標(SDGs)の中には人権問題がある。これは何も途上国だけの問題ではなく、先進国でも人権を無視したブラック企業をなくすのは目標の1つだ。会社がSDGsへの取り組みをアピールしながら、一方で社員には長時間労働、過重労働を強いて、生産性向上に取り組んでいないとすれば、世界的評価は低くなる。

 世界の優秀な人材を登用し、ダイバーシティ効果を引き出すことが求められる時代に、世界に通用しない労働慣習を持つ日本は優秀な人材確保で苦戦している。その1つの条件が働く者の満足度にどれだけ注目しているかだ。日本人には「雇ってくれているだけでありがたい」という雇用者に有利なメンタリティが未だにある。

 しかし、DXに対応できる若い人材に対して、高給は払う一方で驚くような長時間労働を強いている大手IT企業も存在する。これでは世界から優秀な人材を集めるには無理がある。せいぜい、キャリアアップに利用されるだけで、2,3年で転職してしまうケースが少なくない。

 日本人の仕事に対する責任感や最後までやり抜く精神は賞賛すべきだが、DNAに刻まれた組織に仕える下僕精神は今、日本が次のステップに踏み出す大きな妨げになっているというのが私個人の見立てだ。