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 仏政府は今夏7月に発表したフランス電力(EDF)の再国有化の手続きを今月4日に開始した。欧州全体がロシア産化石燃料との決別に動く中、国家の独立性、安全保障の意識の高いフランスは、エネルギー供給確保をあくまで政府主導で行う構えで、原子力発電も運営するEDFの経営権を掌握する構えだ。

 具体的手続きとして市場規制当局に申請書類を提出し、1株当たりの買い付け額は今夏発表した12ユーロを維持。市場での買い付け開始は11月10日としている。仏政府はすでにEDFの株式を84%保有しており、今回の完全国有化コストは97億ユーロとしている。

 政府は今回の決断について、温室効果ガスによる気候変動の非常事態、エネルギー危機の地政学的な状況を考慮し、フランスが重視してきた国家の独立性とエネルギー主権を確保するためと説明している。具体的には短期的視野が重視される民間投資家の影響下から一旦退き、長期的視野に立った戦略に取り組むためとしている。

 国家の危機対応の一つの選択肢として、基幹産業の国有化は1つの選択肢だが、そこにはそもそもフランスが伝統的に国有企業を引きづってきた過去も影響している。「民間の理性よりも国家の知性」という中央集権的エリート主義で資本主義に常に距離を置いてきたのはフランスでは何も左派だけではない。

 実際、日本の自動車メーカー、日産と1999年に業務提携したフランスのルノーは今でも国が1部の株式を保有し、日産の経営やトップ人事などに影響を与えている。根底には利潤追求がもたらす弊害への警戒感もある。資本主義の権化だったゴーン氏に日産・ルノー両社を任せた結果を見て、フランス人は資本主義の醜い面を思い知ったともいわれている。

 ただ、国有化すれば今度は政府の責任は重い。それに「決めるのは私だ」というマクロン大統領の強権も見え隠れする。今のところ、欧州の他国に比べ、エネルギー価格が抑えられているフランスだが、その維持のための副作用が他で表面化した場合は、国民は確実に反発するリスクがある。

 フランスにおいては意思決定の権限重視は欧州トップクラスだが、今の先が読めない不確実性が高まる状況では、権限も重要だが、危機を正確に分析し、正しい判断を下す方がはるかに重要だろう。それに政府が主導するといっても、そこには権力闘争や腐敗、政治闘争のリスクがないとはいえない。

 ただ、とにかくエネルギー主権、国家の独立性という考え方そのものは、日本も見習うべきものが多いだろう。