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 ソニーの盛田昭夫伝説にはウォークマン誕生物語があります。1980年代初め、立教大学の学生がレコードレンタル店を起業し、若者は書店ではなく、そのレンタル店で音楽を熱心に聴く姿がありました。それを見て歩きながら音楽を聴ける装置のアイディアが浮かんだのが、ウォークマンの始まりだそうです。

 当時、アメリカでは巨大なラジカセを肩に担ぎ、音楽を聴き、踊りながら練り歩く黒人の姿が世界に伝えられました。そこでソニーはモバイルの超小型ラジカセを開発し成功したわけですが、社内では当初は猛反対されたそうです。盛田昭夫の先見の明は、若者文化に新たなライフスタイルを生んだ瞬間でした。

 富士フイルムは、デジタルカメラの普及を予見し、自社の創業以来のフィルム業の終焉を予見し、業態を変える大胆な動きに出て成功しました。その退路を断った決意の凄みは、自ら世界に先駆けてデジタルカメラを世に送り出したことでした。今では医薬品、医療機器、化粧品、健康食品や高機能化学品の製造・販売で知られています。

 当時の開発担当者は、大胆な業態変更について、自社が持たないまったく未経験の新しい分野に取り組んだのではなく、自社が得意とするものの組み合わせを変えたことだったと述懐しています。無論、社内に反対意見は多く、失敗も繰り返したのも事実でしょう。

 ソニー創業者の1人、故井深大氏の残した言葉は、今でも大きな意味を持っていると私は思っています。それは「『デジタルだ、アナログだ』なんてのは、ほんと道具だてにしか過ぎない。これは技術革新にも入るか入らないくらい」という発言には本当に深いものを感じます。

 第1次産業革命は、18世紀末以降の水力や蒸気機関による工場の機械化。第2次産業革命は20世紀初頭の分業に基づく電力を用いた大量生産による大量消費。第3次産業革命は、1970年代初頭からの電子工学や情報技術を用いた一層のオートメーション化でした。

 そして第4次産業革命は、ビッグデータの活用技術、人工知能(AI)による学習機能と判断能力という2つの核心技術が、大量生産・画一的サービス提供から個々にカスタマイズされた生産・サービスの提供を可能にし、既に存在している資源・資産の効率的な活用ができるようになり、AIやロボットによる、従来人間によって行われていた労働の補助・代替などが可能になりました。

 特に私は個人の要求やニーズにカスタマイズが可能になるという部分にワクワク感がありますが、可能性は無限にも見えます。井深大が生きていれば、第4次産業革命を見て「確かに技術革新だ」と認めるでしょうか。

 ノーベル賞受賞者が発表される季節ですが、受賞者の多くは新しい発見によって人類に多大な貢献をした人が選ばれています。つまり、新しい価値創出に貢献した人たちです。昨今、クリエイティブなスキル養成が注目されていますが、その代表選手は実は芸術と科学でしょう。

 その芸術に長年関わり、技術革新に関心を寄せてきた人間として、いくつか思いつくキーワードを書いておきたいと思います。1、自由であること、2、ワクワク感、3、開拓精神、4、課題を見つけ出すスキル、5、人間にとってという共感の普遍的発想、6、夢とイマジネーション、7、限られた材料で最大限の価値を生み出す。

 最近、これら7つに加えるものとして、為に生きる無私の心を挙げておきたいと思います。SDGsを汚い人間の自己中心的野心で腐らせないためです。SDGsは身近なところから始めるべきで純粋な動機が必要です。1人で17の目標・169のターゲットを達成できるわけではありません。

 それより、ワクワクしながら問題解決のための新しい価値創出に取り組む非常にポジティブなマインドを大切にすべきでしょう。私は南米の奥地の広大な自然に身を置いた時、そのワクワク感を強く感じました。アメリカの開拓者が、発見した土地に自らの理想を実現しようとして燃えたような感覚が今必要だと思います。