Vladimir_Putin_19-01-2021

 ロシアのプーチン大統領がウクライナ戦争でウクライナ軍の反転攻勢に対して、部分的国民動員令を出したことで、徴兵を恐れ、国外脱出を試みるロシア人が増えている。ところが彼らの最大の受け入れ先である欧州連合(EU)が受け入れを拒否しており、結果的にフィンランド、ジョージア、トルコ以外、彼らの国外脱出の道は絶たれている。

 この報道を真っ先に行ったのは米ウォールストリートジャーナルだが、実はこうなる以前にEUとして、9月に入り、ロシアからの旅行客受け入れを大幅に制限する決定を下していた。特に、ラトビア、エストニア、リトアニア、ポーランドなど、ロシアに隣接する国々は独自にロシア人を遮断していた。

 この夏、一方でウクライナに軍事侵攻して多くの人々を殺害し、町や村を破壊しながら、一方でヨーロッパでヴァカンスを楽しむロシア人が問題になった。彼らの多くは空路が封じられているため、陸路で国境を越えてEUに入っていたが、EU側は不快感を露わにしていた。

 とはいえ、EU内にはロシア人滞在者は少なくない。ビジネスはある程度遮断されていても文化交流もある。ロシア人旅行者も親戚に会いに来るなど様々。そのためEUの西側の国は完全な国境遮断に躊躇している。しかし、基本的に陸路でEU域内に入ってくるロシア人は域外との国境を越える必要がある。

 今回、徴兵を嫌って国外脱出するロシア人を受け入れるかどうかは微妙な問題だ。今までの流れからすれば、ウクライナ難民を多く抱えるポーランドにたとえ徴兵拒否とはいえロシア人が避難してくることでの国内の混乱は想像に難くない。そもそもロシア人は今、信用されていない。

 ソ連邦時代、ロシアは連邦内にロシア人を大量に移住させ、抜き差しならない関係を築いた。そのロシア系住民が2014年、クリミア併合で積極的に動き、ウクライナ東部のドネツクなどで紛争の種となった。それを肌身で感じてきたバルト3国や東欧諸国にロシア人を受け入れる選択肢はない。

 懲役を拒否すれば、ロシアでは今、10年以上の懲役が科される。一方、劣勢のウクライナでロシア軍に加われば死ぬ可能性も高い。プーチン氏にとっては愛国心を試す機会でも、東西冷戦で民主化されて30年が経つロシアで国民が強制徴兵に応じる可能性は高いとはいえず、止まない抗議デモにも表れている。

 この先、「全ての可能性を総動員する」と宣言し、勝利しか頭にないプーチン氏は今、核兵器の使用も選択肢の一つと言い切っている。EU欧州委員会のボレル外交・安全保障担当上級委員は、ロシアの核兵器使用は単なる脅しではないと受け止めるべきと最近発言した。

 ロシアに反対するわれわれ西側は、ウクライナ戦争で劣勢に追い込まれ、国民の部分動員で国内統治が大きく揺らぎ、対ロシア制裁措置が本格的に効果をあげることで、プーチン氏が諦めるか、大統領として辞任に追い込まれることを願っているが、破れかぶれで核兵器を放つ可能性もあり得る。

 そうなった時に備えた準備はできているのか、核弾頭の数からすればアメリカと英仏を合わせればロシアと互角に戦えるとしても、そんな全面核戦争になれば地球は死の灰に覆われ、地球温暖化も吹き飛ぶ滅亡の危機に立たされることになる。

 とはいえ、プーチン氏の心は頑なになるばかりで、側近もロシア国民も、さらには国外からも止められなくなると最悪の事態も想定する段階に入ったといえそうだ。となると何より重要なことは対ロシアの戦いのリーダーシップだろう。

 誰がリスクを最小化するリーダーシップがとれるのかだが、今は米欧の指導者のリーダーシップは極めて怪しい。あとは動員されたロシアの予備兵たちが次々と前線で投稿し、ロシア軍が戦えない状況に追い込まれることも次の希望的シナリオとして考えられる。