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国葬の日のロンドン・ハイドパークに設置された7つの巨大スクリーンを見る弔問の群衆

 イギリスのエリザベス女王が今月8日、滞在先のスコットランド・バルモラル城で、家族に囲まれて亡くなった。96歳だった。ロンドンのウェストミンスター寺院で行われる19日の国葬の日、たまたまロンドンにいることになったので、ロンドン西郊イーリングの市庁舎で記帳を済ませた。

 葬儀が行われるウエストミンスター寺院は、英王家の戴冠式や結婚式が行われる場所だが、君主の葬儀がこの寺院で行われるのは18世紀以来となる。国葬までイギリスは喪に服しているが、棺が安置されたウエストミンスターホールには連日、全国から弔意を表す列が続き、24時間並ぶ事態にもなった。

 エリザベス2世は父親もそうだが、生まれた時から定められた君主ではなく、父親ジョージ6世は喋ることもままならない吃音者で兄エドワード8世が王位を個人的理由で退位したことで王位を押し付けられた。そのため、ジョージ6世の長女であったエリザベス2世が君主になる運命となった。

 つまり、父、娘共に王位に就くことを待望されて生まれ育ったわけではなかった。父親ジョージ6世が王に就いた時は第2次世界大戦前夜であり、ナチスドイツとの戦いに明け暮れた、ジョージ6世は最初のイギリス連邦元首にもなったが、陽の沈まぬ国といわれた大英帝国が衰退し、冷戦後にアメリカに追随するしかない運命を受け入れるしかなった時代だった。

 英国は大革命で国王ルイ16世を処刑し、共和制に移行していったフランと違い、君臨すれども統治せずではあったが君主制を維持し、議会制民主主義と君主制を両立させている国だ。欧州で今も立憲君主制なのは7か国しかなくなったが、国家統治の専門家の間では権力はなくても君主を残す統治の方法の方が国家の安定効果が高いともいわれている。

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  ロンドン西郊イーリング市役所で記帳する筆者

 大陸欧州に残る王族にとっては当然、エリザベス2世は別格の存在で、今回の国葬を含む一連の荘厳な儀式と弔意を表す国民の想定外の多さ、海外からの弔意は、欧州の王族にとっては大きなインパクトになっていることは間違いない。

 ただし、エリザベス2世が特別なのは、その地位にあるだけでなく、彼女が70年間の在位期間を全うした君主制の維持と国家の繁栄のために完全に身を捧げ、当人自身がイエローペーパーを賑わすようなスキャンダルで取り上げられることは1度もなく、柔和で無私の奉仕精神で国に仕えることを生涯貫いたことだ。

 つまり、歴史に登場した世界の君主の中でも、人間として宗教的にも政治的にも完全に使命を果たした偉大な人物として歴史に刻まれるのは間違いない。それを表したのが目立った反王政派の抗議デモやや騒ぎ、テロもない中、想定外の長蛇の弔問の列を世界が目撃したことだった。

 英国国教会のトップを務めたエリザベス2世は、道徳的腐敗や男女問題のスキャンダルとは無縁だった。同時に政治に対して無言の影響を与え続け、国体維持に貢献した。皮肉にも最後の公務として王室廃止論を若い時に唱えたトラス新首相の任命を行ったことだが、政治家として弔問の長蛇の列を見て、王室の存在の大きさを思い知ったとも言える。

 英国は国王に恵まれた70年を過ごしたとも言える。在位70周年を祝い、最後に首相の任命式を行ったエリザベス2世は、ブレグジットした英国がコロナ禍が終息する中、ウクライナ戦争とエネルギー危機、インフレによる困難な時期に差し掛かる中、まるで自ら幕を引くように君主の使命を全うして他界した。

 英国の君主制の今後がどうなるかは、チャールズ3世新国王と英国民次第だが、最も気になるのは新国王を含め、スキャンダルまみれの王族のリベラリズムによる道徳的腐敗だろう。この問題は故エリザベス2世にとって禍根を残した。