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 ドイツ政府は5日、国内の原発3基のうち2基について、今年末の期限を超えて稼働可能な状態を維持すると発表しました。この決定により年内に原発ゼロをめざしたドイツ左派勢力の悲願は潰えたことになります。天然ガスの供給がひっ迫する中、冬を越せない恐怖は国民世論を変えたといえそうです。

 1970年代後半から続いた反核、反原発運動は、ヨーロッパの中では特筆すべきほど長期に渡ってこだわり続けた左派の執念ともいえるものでした。お隣のフランスが世界で2番目の56基の原子炉を保有し、約7割の電力を原発に依存しているのとは対照的です。

 しかし、ドイツ左派が説得力を持ったのは、ロシア産天然ガスあってのことで、カーボンニュートラル(脱炭素)に向けたシナリオで、温暖化ガスの排出量が石炭や天然ガスより少ない原発を優先して廃止する政策は、明らかにイデオロギー的でした。

 ウクライナに侵攻したロシアに対して、ロシア産エネルギー資源依存脱却という制裁措置に対抗し、ヨーロッパ経済の生命線ともいうべき天然ガス供給を絞り込むロシアの態度は想定内だったのでしょうか。制裁に追い込まれても戦争を続けるロシアは想定外だったのかもしれません。

 特にドイツは2022年末までに原発ゼロにするという40年来のゴールを目前に控え、ロシアが屈しないどころか収入を激減させても天然ガス供給を停止する態度に困惑状態です。根競べといわれる制裁合戦でドイツは年内の原発ゼロの悲願を諦めたといえます。

 ドイツ政府の公式の説明では、国内の原発3基のうち、南部の「イザール2」と「ネッカーベストハイム2」の2基は非常用の予備電源として来年4月半ばまで利用できるようにしておくとしています。

 ハーベック独経済・気候保護相は声明で、今回の措置は2022年末までに原発から撤退するという政府の従来の約束を破るものではないと指摘。送電業者のストレステスト(耐性評価)により、欧州エネルギー市場のひっ迫を考慮すると、冬季に電力供給が数時間危機的な状況に陥る可能性があることが明らかになったからだと説明をしています。

 ハーベック氏は同盟90/緑の党 の元党首(共同党首)で、反原発の旗を振ってきた人物。「危機的状況や極端なシナリオが発生する可能性は極めて低い」と述べてはいますが、追求してきた理想が崩れたのは確かです。当初、原発ゼロ推進派は、原発電源は天然ガスの代替にならないと屁理屈を述べていました。

 そもそもロシア産天然ガスの先細りが懸念された今年春以降、不足分を原発より二酸化炭素をはるかに排出する石炭発電で補う方針が出されました。脱炭素のシナリオに逆行するものでした。そこまでしても年内の原発撤退にこだわり、8月には「延期はない」といっていた同経済相の発言を思い出します。

 2022年末までに段階的に原発から撤退する決定は、2011 年 3 月に日本の福島第一原子力発電所での事故発生を受けてのことでした。世界からも注目され、社民党や緑の党は好ましい方向に向かっていると期待し、ショルツ政権発足で原発ゼロに確信を持っていました。

 福島原発事故以降も論争は続き、2021年10月13日にWelt誌に掲載された環境保護論者、ジャーナリスト、学者がドイツ国民に宛てた公開書簡「親愛なるドイツに原子力発電所を送電網に残してください」は、現状では原発完全停止は現実的でないとの指摘でした。

 最新の世論調査では、原発完全撤退延期はやむなしが半数を超えており、日本と違い半年以上冬のドイツで冬の寒さを乗り切れない危機感がイデオロギーを上回っているといえそうです。