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 ウクライナに軍事侵攻したロシアに対する制裁で大きな比重を占めるロシア産化石燃料の不買運動は、エネルギー価格の急騰を招き、エネルギー資源の乏しい貧困国、途上国は先進国以上に深刻な影響を受けています。インフレが広がる先進国が支援の手を緩めれば、弱い国から生存が脅かされる状況です。

 米ウォールストリートジャーナル紙によれば、発電に使用される液化天然ガス(LNG)の世界的争奪戦が激化しており、「船で世界中に運搬可能なLNGの価格は、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)で需要が抑制された2年前の底値から1900%も高騰している」と指摘しています。

 原因の一つはロシア産天然ガスに大きく依存してきた欧州諸国が、世界中からLNGを買いあさっているからです。結果、貧しい国々はLNGに手が出なくなり、さりとて代替エネルギー源も確保されていないために、節電くらいしか手段がない状況で、市民生活にも経済活動にも深刻な影響を与えています。

 この事態がさらに深刻化するとグローバル化をけん引してきた先進国の企業が安い労働力を求めて途上国・新興国に生産拠点を移す流れは、受け入れ国側が安定したエネルギー供給ができないことで稼働を縮小するか撤退する事態を招く可能性が高まっています。

 そうでなくとも途上国に生産拠点を動かした先進国企業の悩みの一つが停電でした。それは工場だけでなく、デジタル化を支える電力供給も不安定となり、途上国での経済活動のデメリットです。それが今後、ますます増す事態が予想されます。途上国にとってのエネルギー価格高騰は外国投資の減少にもつながる深刻な事態です。

 東西冷戦後終結後に進んだグローバル化の大前提は、大国同士が戦争しないことでしたが、米中経済戦争、ウクライナ危機に見る米欧露の代理戦争は、コロナ禍がグローバル化に与えた傷口に塩を塗るような痛みを与えています。

 コロナ禍を何とか耐え抜いてきた途上国は、今度は生きていくための血液ともいうべきエネルギー源が先細りになることで、エネルギー資源を持たない国から生存の危機が迫っている状況です。これがウクライナ危機がもたらした世界秩序を根底から揺るがす危機です。

 トランプ前米大統領が主張していた冷戦終結後の世界秩序をリセットする試みは、バイデン政権および欧州に独善外交によって世界をカオスに導いているように見えます。

 途上国支援は今後、食糧支援や自立支援だけでなく、たとえば石油やLNG支援を本格化する必要性もあり、少なくともエネルギー資源国やOPECに対して、経済の論理、ビジネスの論理だけでは世界が持ちこたえられない事態に追い込まれることを、さらに理解してもらう必要があります。

 ウクライナ戦争の長期化で深刻な事態に直面する途上国は、生き延びるために綺麗ごとはいっていられない状況です。そこで世界の嫌われ者になっているロシアや中国のような権威主義の国に助けを求めざるを得ない状況になりつつあります。

 重要になるのは途上国が間違った判断を下さないための政治・経済・外交に関わる先進国や国連のコンサルタント支援です。たとえば中国の債務の罠にかからないための見分け方やロシアの軍事支援を受けることが国益に深刻なダメージを与えることを理解してもらうことです。

 先進国企業もコストの安い途上国を失えば、物価上昇が経済を直撃するのは時間の問題です。いずれにせよ世界に深刻な影響を与える大国の対立を外交によって早急に解決する必要があるわけですが、その邪魔をしているのがバイデン政権に象徴される価値観を押し付ける原則外交による対立の激化、長期化です。

 単純に間違っていると思われる対象国を兵糧攻めにしても、途上国を存亡の危機に晒すだけで根本的問題解決に繋がらないことを西側諸国の経済制裁が証明しているといえます。