St._Tropez
   ロシア人にも人気のセレブが集まる南仏サン・トロペ

 ロシアのウクライナ侵攻以来、ロシアと EU 加盟国間の空域が閉鎖されているにもかかわらず、どこからともなくフランスやスペイン、イタリアのリゾート地にロシア人富裕層のヴァカンス客が出没しています。富裕層ならどんな方法を使い、どんなに費用を費やしてもヴァカンスに出かけるようです。

 1つの方法は陸路でエストニアなど国境を接した欧州連合(EU)に入国し、あとは欧州の航空会社を使って目的地の地中海沿いのリゾート地に向かう方法です。EUの大半の国は協定内の移動の自由が保障されたシェンゲン協定加盟国なので、域外から入国してしまえば、後は旅券審査なしに移動は可能です。

 ロシアに友好的で領空閉鎖されてないトルコなどを経由する方法もあります。富裕層ならプライベートジェットのチャーター機を利用する人も少なくありません。ロシアのプライベートジェット予約サイトにはニース行き、シャモニー行き、アマルフィー行きなどのメニューが並んでいます。

 ところがウクライナに残忍な攻撃を半年も続けるロシアからの観光客を受け入れるEU諸国は複雑です。南仏ブレガンソンでレストランを営む知人は、ロシア人観光客受け入れは背に腹は代えられないといいます。コロナ禍で2年半、夏のヴァカンス客が激減したことからすれば喉から手が出そうなロシア人観光客です。

 その知人は、実は過去にロシア人観光客を入店させない決定を下したこともありました。理由はこの10年間、急増したロシア人富裕層観光客が行儀が悪く、その店が提供する全ての料理を注文し、テーブルを追加して料理を並べ、食い散らす姿に他の客から文句が出たからです。

 南仏各地で起きた現象で、コロナ前は入店を断るほどの十分な客がいたのでロシア人受け入れを拒否する店は多かったわけです。ところが今は金払いのいいロシア人富裕層はありがたい存在、知人は「ロシア人を天然ガスのように止めるのはおかしい」といっています。

 今月末、EU外相会議はロシア人観光客をEUから締め出すべきかどうかを話し合う予定です。特にバルト3国やチェコなど、ロシアに近い国は、自国でロシア人を見たくないとして締め出し強硬派です。ウクライナで確認できているだけで6,000人以上の一般市民を殺害しているロシア人がヨーロッパでヴァカンスを満喫する姿は見たくないでしょう。

 一方、今、南仏はコロナ禍で従業員の多くを解雇したカフェやレストランでは、再雇用で苦戦し、ウクライナ避難民の雇用が増えています。彼らはロシア語も話せますが、職場でロシア人客と遭遇し、彼らのためにサービスする屈辱的状況が現実に起きています。

 第2次世界大戦後最大規模のウクライナ戦争は、一方で連日ミサイルが飛び交い、多くの人々が命を落とす中、西側諸国はヴァカンスを楽しんでいるという不思議な状況です。そこにロシア人も紛れ込んでいる異常さは、戦争と平和ボケの共存を露呈しています。

 フランスのマクロン大統領も大統領の別荘ブレガンソン砦で3週間のヴァカンスを終えたばかりです。実際にロシアのミサイルが飛んでこないにしても、フランスを含む欧州諸国は秋以降のエネルギー不足、物価高騰、インフレ懸念で暗雲が立ち込めている状況です。

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