Aircraft_of_various_airlines_together_at_Narita_Airport,_Japan

 岸田首相は9月7日から、日本の新型コロナウイルスの水際対策変更を発表しました。皮肉にも感染者数の激増、過去最多の死者数、医療ひっ迫の中での緩和措置になりました。2020年2月以降、先進国中最も感染者数を低く抑えてきた日本の思い切った緩和措置は皮肉な結果ともいえます。

 日系航空会社のパリ支店長が昨年暮れに私にいった言葉は、ある意味言えて妙でした。それは私が日本独自の水際対策の手続きが余りにも煩雑で、多くの日本人帰国者が悲鳴を上げていたことに触れた時「まあ、それは日本が海外のコロナ対策をまったく信用していないからですよ」といったことでした。

 その意味は日本より遥かに感染者数が多い欧米諸国は、マスク着用、密状態回避、自宅待機など法的強制力を持つ対策措置をとっても感染者が抑えられないのは、政府も国民もいい加減だからという偏見によるものです。日本は国民の公衆道徳の基準も高く、政府の感染対策も厳格だから、感染が抑えられているという自負でもありました。

 本当のところは分かりませんが、日本政府の発言や態度、特に厚生省から聞こえてくる発言を聞いていると、その奢りを感じざるを得ません。ところが今は感染者数、死者数が急増し、とても世界に誇れるコロナ対策優等国とはいえません。

 結果的に経済活動優先のために対策緩和に半年前から踏み切った欧米諸国に追随する形となり、欧米のコロナ対策を上から目線で見てきた日本の政府や役人の無力が露呈したようにも見えます。

 島国の優位性で水際対策がしやすく、外国人労働者や移民の数も圧倒的に少ない日本が感染者数を抑えられてきたのは、ある意味当然のことであり、政府の対策や国民の衛生観念の高さが感染者数の低さの主因だったとはいえないでしょう。

 それに他の先進国と違い、PCR検査徹底に踏み切らなかった日本政府の態度は、これまで明確な説明もなく未だに謎に包まれています。

 今までの水際対策では、現地での帰国前72時間以内のPCR検査を義務づけ、それも日本の厚生省が出す独自の書類を持って行って現地検査機関に書き込んでもらう方式がとられ、理解のない検査機関で拒否されたりして非常に不評でした。

 さらに現地のPCR検査で陽性が判明した場合、飛行機の搭乗を拒否され、陰性になるまで帰国できなくなるだけでなく、72時間以内の結果提出やPCR検査の高額負担も問題でした。そもそも厚生省の指定する書類は偽の検査機関が書き込む偽造も可能で、あまり意味を成しません。

 日本が海外の政府機関の証明を信用せず、一切受け付けず、今日に至っていたわけですが、結果、帰国前の検査の煩雑さ、デジタル化していないために全て紙で処理され、日本到着後の抗原検査とその結果待ちまで、驚くべき時間を要していたことでした。

 それも日本到着時の高齢者や子供連れ、障害者に対して優先扱いせず、非常にストレスを与えていたことも問題でした。さらに裏側には水際対策の強化で動員されるアルバイト、隔離施設の確保、施設までの移動バスの手配など、さまざまな利権が生じてきたことも見逃せません。

 多分、利用者を最も苛立たせたのはデジタル化の遅れです。ここでも海外の政府が提供するコロナ対策アプリを一切信用しない日本政府の閉鎖性、排他性から、特に欧米先進国で広く普及しているデジタル化されたアプリを受けつけない一方で、日本独自のデジタル化は大幅に遅れています。

 もう一つは「悪いものは国外からもたらされる」という神話を頑なに信じていることでしょう。地続きの国境を持つ国ではありえない発想ですが、これは中国や韓国にも存在し、これらの国の毎日の感染者数の発表に外国人の数が必ず別記されています。

 いずれにしても日本がコロナ対策優等国の地位を失うことで、その要因の一つは奢りと閉鎖性にあったと私は見ています。皮肉にも最初のコロナ対策を担当した厚生労働相の加藤氏が、今年8月に同じポストに復帰したことです。官僚上がりで心のある政治家とは言い難い人物の再起用で、果たして感染対策は成功するのでしょうか。

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