Vladimir_Putin_(2022-02-24)

 ロシアがウクライナに侵攻し、第2次世界大戦以来、ヨーロッパで最大の戦争を引き起こした理由は、ウクライナが欧州連合(EU)だけでなく、北大西洋条約機構(NATO)への加盟をめざしたことが、ロシアの安全と発展を脅かす脅威と受け取られたからです。

 表向きはウクライナ現政権が国民を間違った方向に誘導しており、ロシアはウクライナ国民を権力者から解放する戦争と主張し、国内外に「ウクライナの非武装化と非ナチ化」を強調し、それは侵攻から半年経った今でも変わっていません。

 結果、ロシアが特別軍事作戦と呼ぶ戦争は8月10日時点で難民高等弁務官事務所(UNHCR)によれば、国外に逃れたウクライナ難民は6,377,256人、他の統計では1,100万人が国を逃れ、子供を含む数千人が死亡し、確認が取れない数の人々が自宅を破壊されました。無論、ロシア側も1万人を超える兵士が死亡したと見られています。

 プーチン露大統領の当初の目標は、ウクライナを制圧し、その政府を追放することで、NATO加盟を諦めさせることです。一方のウクライナは2014年にロシアに武力で併合されたクリミアを取り戻すまで戦う決意を表明しており、まったく停戦どころか休戦も見えていない状況です。

 戦争を早期終結させることを最優先に考える論者の中に、2015年のウクライナ東部紛争をめぐる停戦合意であるミンスク合意に立ち返るべきと主張する識者がいます。ロシアの主張も「ミンスク合意を破ったのはウクライナで、裏切られた」と言っています。

 ミンスク合意復活論を唱える人々に共通するのは「戦争によって人命が失われる状態を早く終わらせるのは、少しでも早く停戦を実現する必要がある」というものです。さらに彼らの多くは、アメリカが主導する反権威主義勢力がロシアを追い込んだと主張しています。

 しかし、彼ら宥和論を展開する人々の論点で抜け落ちているのは、ウクライナが西側に向かうのを断念し、ロシアが望む中立化や非武装化に向かうことは何を意味するのかということです。

 そもそもミンスク合意は、欧州安全保障協力機構(OSCE)の監督の下、フランスとドイツが仲介して、ウクライナとロシアが署名したもので、親ロシア派武装勢力が占領するウクライナ東部の2地域に幅広い自治権を認める「特別な地位」を与える内容が盛り込まれたものです。

 合意についての不満はウクライナで高まり、守られなかっただけでなく、親露派とロシア側も、合意で定められた「外国の武装組織の撤退」や「違法なグループの武装解除」を守ってこなかった経緯があります。

 そもそもウクライナ東部で親露派支援を陰で進めたのはロシアで、ミンスク合意はクリミアを手にした後でした。力によって実効支配が成立すれば、領土は奪えるという論理を国際ルール違反とする西側はロシアを制裁対象にしてきました。

もう一つ、最も懸念されるのは中国同様、ロシアには「支配するか支配されるか」の2択しかないことです。結果どうなるかといえば、ロシアはウクライナ支配を望んでおり、それを許せば、反ロシア的なウクライナ市民は身柄を拘束され、拷問を受け、シベリア送りになるか、処刑される恐れは大いにあるということです。

 これはクリミアを支配したロシアがウクライナ派市民に行った踏み絵と弾圧で証明されています。つまり、停戦優先の宥和派の主張では悲劇は終わらないということです。

 妥協より正義を優先する米英こそが戦争を引き起こした張本人という宥和派の主張は、実はそれだけでは出口はなく、善良な市民がさらに犠牲になる地獄が待っているということです。ロシアは第2次世界大戦の終戦のドサクサに紛れて、強引に北方領土を奪った過去もあります。

 宥和論者は善悪を強調すれば、戦争はエスカートして犠牲者を増やすといいますが、善はともかく、悪を放置して悲劇は起きない保障はまったくありません。唯一の西側の失敗はロシアとの対話継続を怠ったことで、それはオバマ米政権の人権外交、無関心外交が始まりです。悪を憎んで国を憎まずの精神が欠けていたことです。

 日本も軍事力をつけた中国や核大国ロシアと対話を継続することで、暴発させないために、常に関心を示し、対話を続けることが重要と私は考えています。とにかく、無関心こそ悲劇をもたらすのが歴史の教訓です。
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