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 ウクライナに軍事侵攻したロシアに対して、ロシア産化石燃料への依存から脱却する具体的方針を欧州連合(EU)が示したのは5月でした。当時、計算ではEUが使用する天然ガスの40%、輸入原油の27%をロシアに依存し、年間約4000億ユーロの収益をロシアにもたらし、軍事費に転化されていることが問題視されました。

 あれから、ドイツは6月以降、ノルドストリームによって供給される天然ガスが従来の60%に絞り込まれ、結果として独エネルギー大手ユニパーは足りない分を他の市場から割高で調達しており、1日あたり数千万ユーロの債務超過に陥っています。

 ドイツ政府は救済のため、同社の30%の株式を取得し、経営の立て直しに乗り出し、ガスの安定供給をめざしていますが、この夏、備蓄を増やして冬を乗り切ることができても、今後、ロシアがガス供給をさらに絞り込めば、欧州最大の経済大国ドイツは窮地に追い込まれるのは必至です。

 EUは今、二つの優先事項に取り組んでいます。1つはロシアへの制裁でウクライナ攻撃を思いとどまらせるエネルギー調達先を変える「リパワーEU」政策。もう一つは2050年までに脱炭素のカーボンニュートラルを完了するための温暖化対策です。後者は今回の熱波で欧州は広大な土地が山火事で焼失し、1,800人近い犠牲者を出したことで、最優先の課題です。

 EUは気候変動の抑制に寄与する投資対象「EUタクソノミー」に23年から天然ガス発電や原子力発電を加え、それらへの投資をグリーンと認定する方針です。欧州議会も支持を決定しましたが、加盟国や議員、投資家の間で意見が割れています。

 ドイツは投資促進対象に原発が含まれていることで同規則案に反対し、オーストリアとルクセンブルクは法制化されればEUを提訴すると警告しています。一方、原発依存度の高いフランス、石炭の使用量が多いポーランドが支持しており、EUの方針に加盟国が合意しているとはいえません。

 それでも今夏の熱波襲来や、仏気象庁の「2050年までに熱波発生の頻度は今の2倍になる」という衝撃的な予測で、地球温暖化対策に反対する勢力はほとんどありません。

 しかし、ロシア産化石燃料依存から脱却は想定外の事態です。ロシアがウクライナに侵攻する直前に完成したノルドストリーム2はロシア産ガスのさらなる輸入が前提でした。市民生活だけでなく、多くのビジネスモデルは安価なロシア産化石燃料使用が前提だったので、そのダメージは甚大です。

 さらにロシア産化石燃料の依存度は加盟各国で様々で、フランスはロシア産は全体の17%、ドイツは40%を超え、バルト3国や東欧諸国はさらに依存度が高く、フランスは総エネルギーの7割を原発に依存し、ドイツは今年年末までに原発ゼロをめざしています。

 ロシア産燃料との決別といっても事情は様々で、当然足並みが揃うわけがありません。そこで浮上したのがEU域内外で生産されるエネルギーのEUによる再分配の議論です。欧州委員会のフォンデアライエン委員長は「EUにそんな権限は与えられていない」と説明していますが、回避できない議論です。

 特に加盟各国が域外から輸入する燃料を加盟国間で再分配でもしないと、ロシア産燃料依存は減らせないだけでなく、ロシアがEU経済を牛耳る状況を変えることができないからです。経済依存度を深めれば戦争は起きないというグローバリゼーションの神話が崩壊した今、世界は相互依存リスクを抱えています。