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 根競べといわれる西側とロシアの経済戦争ですが、ウクライナ侵攻でロシアに対して制裁効果を引き出したい西側と制裁に加わらず、ロシアとの関係を維持しようとする勢力の駆け引きが続いています。バイデン米大統領はロシアとの友好関係を維持するサウジを訪問し、石油増産を求めましたが、手ごたえは今一つでした。

 米ウォールストリートジャーナル(WSJ)は、ロシアと西側諸国の経済消耗戦は、ロシアが軍事・経済用の輸入品確保に苦労する一方、西側諸国はロシア産エネルギーからの代替で苦戦し、「米国と欧州も主にエネルギー価格の上昇を通じて大きなコストを負担している」と指摘しています。

 英誌エコノミストの調査部門、エコノミスト・インテリジェンス・ユニット(EIU)の最近のリポートによると、ロシア・ウクライナ戦争は2022年の世界GDP(国内総生産)を約1兆ドル(約138兆円)押し下げる見通しだとし、EIUは世界経済の成長率見通しを開戦前の予想3.9%から2.8%に引き下げました。

 西側の当初の予想に反し、制裁効果が怪しい中、ロシアと近い中国だけでなく、西側に完全に与しない制裁に加わらない国々が、この消耗戦でロシアを支えている構図です。特に西側が主張する他国に軍事侵攻して力で国境を変えさせることを許さない道徳的姿勢は、制裁に加わらない国にとっては最重要でないところが事態を深刻にしています。

 中でもトルコは、ロシアと完全に敵対するNATO加盟国でありながら、スウェーデンとフィンランドのNATO加盟について、19日にも改めてスウェーデンが約束したクルド人テロ組織排除問題で進展がないとして批准しないかもしれないと同国のエルドアン大統領が発言し、NATOを困らせています。

 エルドアン大統領がウクライナ危機を利用してしたたかな外交を展開していることは、このブログで指摘しましたが、実は彼の足元は火の車です。

 トルコ統計機構(TUIK)の発表(7月4日)では、2022年6月の消費者物価指数(CPI)上昇率は、5月の前年同月比73.50%から78.62%にさらに上昇し、過去約20年間で最も高い水準に達しています。つまり、国民の不満は爆発寸前です。

 ロシアのウクライナへの軍事侵攻により、両国間の物の流れが停滞したことで、トルコの貿易および物流セクターが混乱をきたし、経済的ダメージは深刻です。トルコが国連と協力してウクライナ産の小麦の輸送問題に関してロシアと協議しているのは自国も死活問題になりつつあるからです。

 そのトルコは同国企業が、ロシアから撤退する西側企業の買収に乗り出しています。たとえば、スウェーデンの家具販売大手イケアが2013年にトルコのフィバ・ホールディング傘下のクレジットヨーロッパ銀行(オランダの登録銀行)との合弁で設立したイカノ銀行のロシア事業のシェア(50%)を、フィバに売却することで交渉していると報じられています。

 制裁効果で最大の障害はロシアへのエネルギー依存です。ヨーロッパがロシア産エネルギー依存の脱却を決める中、売り先を探すロシアに対して、中国はこれぞとばかりにロシア産原油や天然ガスを安く買いたたいて輸入を増やしています。

 そうはいってもエネルギー戦略で欧州を揺さぶるロシアのやり方を見ながら、エネルギー依存の危うさも考慮の上での行動と思われ、リスク分散にも余念がありません。中国の頭の中には広域経済圏構想「一帯一路」があり、エネルギー調達は主要戦略に織り込み済みです。

 実はウクライナのキーウを首脳が訪問し、同国の欧州連合(EU)加盟を支持した仏独伊は、ロシア産エネルギー依存脱却の影響が経済を直撃しており、物価上昇により、生活は厳しさを増しています。結果として国民の不満は政治に向けられ政治は不安定になっています。

 アメリカが豪語した「制裁はロシアに致命的ダメージを与え、米経済や世界経済への無用な波及」は避けるという言葉は今ではむなしく響いています。

 ドイツ連邦銀行(中央銀行)によると、ロシアのガス供給が完全に止まれば、ドイツの今年のGDPは、現在の予想よりも5%下振れる可能性があるとしています。

 結果的にロシア産原油や天然ガスを適度に流通させながら、景気後退を防ぎつつ、制裁効果を挙げてロシアを追い込む方針がイエレン米財務長官などから発せられています。専門家の間ではその山場は今秋には見えてくるということですが、どうなるのでしょうか。

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