Vladimir_Putin_and_Recep_Tayyip_Erdoğan

 トルコのエルドアン大統領はロシアのプーチン大統領同様、したたかな勝負師といえそうです。プーチン氏が近くトルコでエルドアン氏と首脳会談を予定する中、ロシアによるウクライナ侵攻で穀物輸出が滞っている問題を巡り、両首脳は11日、電話協議し、首脳会談の地ならしを行いました。

 エルドアン氏は穀物輸送のための「安全な回廊を作る時だ」と主張しており、国連が主導した、トルコ、ロシア、ウクライナの4者が連携して、食料不足に陥っているアフリカなどに穀物を届ける必要性を主張しています。

 トルコは黒海の地中海への出口を管理し、東西文明が交差する地政学的に有利な立場に立っています。加えて北大西洋条約機構(NATO)の加盟国でもあり、欧州連合(EU)加盟を夢見ながら、一方では中東アラブ世界に対して影響力も行使しています。

 今もシリアからの難民を預かり、国内でテロリスト扱いしているトルコ、シリア、イラクなどに広がるクルド人勢力と戦っている国です。

 裏を返せばエネルギーや食糧も含むウクライナ危機、イランを含む中東危機、そして欧州、アフリカの緊張に影響を受ける危ない国ともいえます。だからこそ、孤立感もあり、経済自立、国防意識が高く、外交力を駆使して国益を守ることにしたたかな国といえます。

 エネルギ―分野でも、2019年暮れにトルコとアゼルバイジャンを結ぶパイプラインTANAPを開通させました。カスピ海に面するアゼルバイジャンの油田から天然ガスを南イタリアに輸送する総延長3,420キロの「南部天然ガス輸送路(SCG)」はロシアへのエネルギー依存を削減する流れの中で、大きな意味を持っています。

 プーチン氏もトルコがフィンランドやスウェーデンのNATO加盟を支持したことでトルコに対して強硬姿勢を取れないのは、トルコがロシア南東の戦略に重要な存在なためだからです。

 その立場を最大限利用して、ウクライナ危機でもロシアとウクライナの仲介役を買って出る一方、食糧問題では国連と連携し、したたかに行動しているといえます。

 ロシアが憤慨する北欧2カ国の加盟についてもトルコ国内での批准手続きが残っており、加盟支持の条件としたテロリスト指定しているクルド人の引き渡しをすスウェーデンが行わない場合は批准しないと念を押しています。

 無論、対立する双方にいい顔をすれば、下手をすればどちらからも信頼されず、孤立するリスクも承知の上での外交を展開しているのでしょう。

 1年後に選挙を控え、支持率が低迷するエルドアン氏は国内の保守支持派の基盤強化が最優先です。したたかな外交で国益を引き出すエルドアン氏、しかもプーチンや習近平のような反対する者は権力で排除できる専制国家のトップではなく、強権を批判されつつも民主主義の国のトップという点で、見習うべきものもありそうです。

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