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 北大西洋条約機構(NATO)が、ロシアを直接的脅威と位置付け、防衛態勢強化の方針を明確にする中、足元のヨーロッパ市民のウクライナ危機への意識は微妙に変化しているようです。欧州外交評議会(ECFR)の最新の調査は特にヨーロッパの東北諸国と西側諸国の温度差の開きを指摘しています。

 ロシアがウクライナに侵攻して4か月となるヨーロッパ内の8,000人を対象にした世論調査を6月15日に公表したECFRによれば、ロシア侵攻の最初の100日間、ヨーロッパの世論は政治的団結を示しました。しかし、戦争が長期化する中、その団結は明らかに弱っていると指摘しています。

 基本的に今でもヨーロッパ市民はウクライナへの強い連帯を示し、対ロシア制裁を支持していますが、どんな方法でも戦争を早期終結させることを望む平和優先派は全体の35%、ロシアを絶対に勝たせてはならず、厳しく罰するべきという正義派は22%と分かれています。

 正義派が平和優先派を上回っているのはウクライナの隣国ポーランドで、他の国は戦争の長期化による経済制裁の代価と核戦争へのエスカレートの脅威を心配する声は強まる一方ということです。当然ともいえますが、基本的に戦争の長期化を望んでおらず、ロシアを完全屈服するまで戦うべきという意見は低くなっています。

 実際、ウクライナ危機後、ウクライナへの軍事支援のために国防費を増額したのはポーランド、ドイツ、スウェーデン、フィンランドのみで、ウクライナに隣接する国々です。ただ、NATO首脳会議で対ロシアの防衛態勢強化が決まったことでヨーロッパ各国は国防費増額は不可避といえそうです。

 ヨーロッパ各国の政治指導者はECFRが指摘するように、正義派と平和優先派による分裂が起きないように新たな手を打つ必要性に迫られているということでしょう。物価高騰、エネルギ価格上昇や不足の事態はすでに始まっており、経済制裁の代価を払うことにどこまで耐えられるかが問われています。

 戦争が続く以上、武器供与と制裁は継続するしかなく、それは自国およびヨーロッパ防衛に不可欠ということを国民に理解してもらうことですが、容易ではないといえます。

 ECFRの調査結果で興味深いのは、ウクライナ危機をもたらした原因についてロシアがその最大の主因とする見方が強いのは、フィンランド、英国、ポーランド、スウェーデン、ポルトガルで、これらの国ではウクライナやEU、アメリカが原因と考えるのは10%以下です。

 逆にドイツ、フランス、ルーマニア、イタリアでは、ロシアが原因という見方は66%から56%で、ウクライナやEU、アメリカにも非があったという見方が18%から27%となっていることです。当然、彼らは制裁強硬派とはいえず、制裁の長期継続には後ろ向きなのが伺えます。

 後者は戦争が長期化すればするほど、戦争終結優先、制裁早期解除に世論が触れていく可能性もあります。すでにマクロン仏大統領、ショルツ独首相はロシアを追い詰めすぎることに懸念を示しています。

 表向き、自由と民主主義の価値観を守る戦いというメッセージだけで突き進めない現状があることが分かります。これでプーチン氏との根競べはできるのでしょうか。