mobilise-pour-l-ukraine-a-paris-les-photos
  ジュリアン・マラン(セス)のウクライナ戦争に抗議する作品(パリ13区)
 
 ストリート・アートは近年、世界中で存在感を増しています。それを後押ししているのは謎に包まれた路上芸術家バンクシーの存在。ストリートアートの特徴は公衆の目に触れる機会が圧倒的に多いことと、その無名性ですが、今では正体が明らかになっている作者も少なくありません。

 この欄で昨年3月にはPichiAvoデュオという2人組のアーティストによるパリに出現したフレスコ画を彷彿とさせる作品を紹介しました。落書きレベルを超え、本格的な壁画といえる作品でした。今、パリのストリートアートはウクライナ戦への抵抗をテーマとするものが急増しています。

 バンクシーも政治的メッセージの作品が多いように、ストリート・アートは公衆の目に触れるだけにメッセージ性は重視されがちです。無論、時に賛否両論の議論は巻き起こしますが、実はフランスの芸術家とウクライナとの関係は今に始まったことではありません。

 フランスも世界中の芸術家同様、ウクライナ危機で連帯を示すために、展覧会や作品売買の収益を寄付したり、ウクライナ関連のイベントを頻繁に開催したりしています。パリ市内ではウクライナ関連のストリート・アート作品をたくさん見ることができます。

 その代表格はアーティスト名、セスとして活躍しているジュリアン・マランの作品です。パリ13区のビュオ通りに面した壁に描かれた戦車を踏みつけながらウクライナの国旗を掲げて大股で歩く少女の絵のメッセージは明確です。

 彼はウクライナ東部の激戦地ドンバス地方を過去に訪れた時に得たインスピレーションで、図柄を思いついたと述べています。彼はいつも子供がモチーフです。

 2000年にパリの装飾デザイン学校を卒業し、フリーランスのイラストレーター兼グラフィックデザイナーとしてフランスのみならず、カナダ、中国、南米、東京などで仕事をしています。日本の宮崎駿の「千と千尋の神隠し」や漫画にも影響を受けたそうです。

ukraine-a-paris-streetart
  クリスティアン・グエミーの手によるウクライナへの連帯作品(パリ13区)

 一方、ロシア軍がウクライナに侵攻した後の今年3月10日、パリ13区のドムレミー通りとパテー通りの角にある建物の壁に4階の高さの巨大な壁画が出現しました。

 ウクライナ国旗の配色の上に描かれた花の冠を被った少女像は、フランスでC215という名で知られる著名なストリート・アーティスト、クリスティアン・グエミーの手によるものです。

 彼は、ウクライナのゼレンスキー大統領が「自分の写真をオフィスに飾らないで欲しい。私は神でもアイコンでもなく、国に仕える下僕だ」という言葉に心を動かされたとそうです。ストリート・アーティストにとっては本来、無名性は重要です。

ukraine-a-paris-streetart 3

 その他、ストリート・アーティストたちの発表の場となっているパリ13区ビュット=オー=カイユの丘では、3月8日の国際女性デーの日に女性ストリート・アーティストたちがウクライナの女性との連帯を示すための作品を発表しました。

 パリは長年、ヨーロッパの戦争難民の芸術家が住み着いた町だったので、戦争は芸術家にとって身近です。私もクレパス画で海の風景を最近描いている途中でウクライナのことが頭を離れず、ウクライナの国旗色で仕上げてみました。

 私にとってはウクライナの海のリゾート地オデーサは、好きだった映画「オデッサファイル」を思い起こすもので、その海岸が脳裏から離れません。いつも戦争に巻き込まれ、不幸が付きまとうウクライナに対してやるせない思いが沸き上がってきます。

20220625_050453_2
  最近筆者が描いたパステル画はオデーサの海岸がモチーフ