Leader

 約15年前、某日系大手自動車メーカーのフランスに駐在する日本人社員を集めた研修を担当しました。全員ホワイトカラーで将来が見込まれる30から40代で、フランス人との協業に苦労していました。受講者の1人の発言は、今でも忘れられない日本のリーダー観を象徴するものでした。

 それは「わが社では、職位が上がるほど楽になるという一般的イメージがあります」というものでした。一方で旧財閥系の大手日系電機メーカーのフランス工場に勤めていた日本人社員から「うちは社長になると、あまりに仕事がハードで退職後5年以内に死んでいます」という話も聞きました。

 両極端な話ですが、両者ともに似ていたのは、トップが支社や生産拠点を訪れると幹部は総出で接待に当たるという慣習があることでした。日本のリーダーシップは未だ完全には権威主義を脱しておらず、リーダーになる人々から、それは地位ではなく役割だと意識転換されていない場合も多く散見されます。

 私は個人的にカルロス・ゴーン元日産会長が背任行為や不当な報酬水増しで起訴された原因について、フランスの極端な中央集権的体質と日本の御神輿経営の権威主義がトップの堕落とモンスター化をもたらし、会社の私物化に発展したと分析しています。

 この権力集中や権威主義が生み出すリスクはどんな組織にもありますが、唯一そのリスクを回避する方法として、社外取締役による監査、ガヴァナンスの強化、そして決して同じ人間に長期に権力を与えないというのがあることは一般的によく知られています。

 フランスで始めてできた日仏経営比較を専門に学ぶ国立レンヌ大学日仏経営大学院で初代学長を務めたピエール・デュラン教授は「日本のリーダーはうらやましい。フランスでは成果を出せなかったり、不祥事を起こしたりしたが、厳しく責任を追及される」と私にいいました。

 大企業の不祥事で責任が曖昧になる例は枚挙にいとまがありませんが、そもそも意思決定プロセスが不明確で責任の所在が個人に集中していません。そんなリーダーを西洋から見ればうらやましいとも見てとれるという話です。
 
 権威主義の弊害は、今やプーチンや習近平の独裁によって証明されているので、権威主義のデメリットは省くにしても、権威主義が地位ではなく、人々の尊敬の上に成り立っている場合は組織に対するエンゲージメントを引き出す効果もあります。

 日本で長年、リーダーは地位と認識されてきました。その地位に対するイメージが日系自動車メーカーの中間管理職の発言だったともいえます。今、世界中のビジネススクールで強調されているのは、組織の先頭に立って見本を示し、部下を支援するリーダーシップです。

 それがリーダーの役割であり、責任だからです。担がれてやる仕事ではありません。日本も地位から役割にリーダーの意識転換がされている企業は増えていますが、大企業、それも旧財閥系企業の意識改革は進んでいません。

 それを象徴するのが年功序列です。役割ならば叩き上げとか経験よりも能力が問われるところです。フランスで史上最年少で閣僚になったアタリ前政府報道官は33歳です。トップリーダーが地位ならありえないはずです。

 それと一旦高いポジションに就いた人間が、低いポジションに就くことも日常起きうる欧米の組織と違い、地位は上への一方通行というのも権威主義を象徴しています。

 とはいえ、日本にもいつも社員のことを考える優れたリーダーもいます。社内外に対して為に生きるリーダーもいます。結局はそんなリーダーがいる会社や組織は成果を出し、成功している事実を見ることができます。

 リーダーは地位ではなく役割という観念を持つ重要性が増しています。