今年のスイス東部ダボスで開催された世界経済フォーラム(WEF)の年次総会(ダボス会議)を支配したのは、当然ながらウクライナ危機への対応の議論でした。
そして注目を集めたのは米外交の巨人といわれるヘンリー・キッシンジャー氏(99)と投資家の巨人、ジョージ・ソロス氏(91)の主張でした。
両者ともにナチス支配下からアメリカに移民したユダヤ人という共通点があり、ウクライナ危機はかつてヒトラーがユダヤ狩りをしたヨーロッパが舞台です。キッシンジャー氏の主張は、世界がロシアの2014年に併合したクリミアを認め、プーチンの怒りを鎮めることで戦争を終わらせるべきだとしました。
一方、ソロス氏は世界で最善と考えられる西洋文明が生み出した自由と民主主義を守るためには、西側が結束してロシアに勝たなければならないという強硬論を展開しました。
両者ともに西洋文明が生み出した価値観の正当性は認めつつも、戦争の終わらせ方に決定的な違いがあります。
ソロス氏は投資家ですから、投資家は資本主義を支える自由主義が存在しなければ金儲けはできません。その意味でソロス氏らしい主張ともいえますが、キッシンジャー氏とともにヒトラーの独裁から逃げた経験者として自由の価値は痛いほど理解しているともいえます。
キッシンジャー氏は権威主義のロシアや中国の間違いを認識しつつも、多国間主義の立場に立ち、世界には様々な考えがあり、それは尊重すべきであり、バランスを重視すべきというものです。
ソロス氏はロシアを放置すれば、中国とともに権威主義体制を拡大させ、世界は無秩序に陥ると主張しています。
この議論で思い出すのは、第2世界大戦前夜、ドイツ系住民が多数を占めるチェコのズデーテンの領有権を主張したドイツのアドルフ・ヒトラー総統に対し、イギリス・フランス両首脳が、これ以上の領土要求を行わないことを条件に、ヒトラーの要求を全面的に認めたミュンヘン協定の例があります。
結果的に英仏の弱腰の宥和策がヒットラーの覇権を拡大させた失敗例として語り継がれています。つまり、独裁者には宥和策は相手に増長の機会を与えるだけで効果なしということです。
バイデン政権の基本姿勢は、アメリカは基本的に国益を冒してまで外国の紛争に単独では関与しないということなので、
一方で価値観の違いには原則論で対処しながらも宥和策の模索も選択肢に入れている立場です。プーチンの反応を見ながら恐る恐る最新鋭の武器を提供しているのもそのためです。
しかし、ロシアのクリミア半島の領土化やウクライナ東部やマリウポリを含む南部で偽装国民投票を実施し、ロシアに編入することを国際社会が認めれば、中国は一機に台湾へ軍事侵攻する可能性があり、世界のあちこちで権威主義国家による戦狼外交が展開される可能性は否定できません。
それは、伊藤博文がドイツ帝国の宰相ビスマルクから聞いた「強者が世界を支配し、支配した者がルールを決め、世界を従わせる」という弱肉強食の野蛮な世界に逆戻りすることを意味します。
ビスマルクの話は古代ギリシャ全域で起きたペロポネソス戦争でアテネ側がミロスの人々に「強者は何でもできる。弱者は受けるべき苦しみを受ける」と言った話と同じです。
実は権威主義国家は、この世界観の思い込みに支配されています。中国も同じです。中国共産党の認識は、世界最強国家アメリカが勝手に中国周辺海域の領海線を引いて自国の利益になるようにしているというものです。
民主主義の国では、国内では個々の市民の権利を尊重する法律が存在し、国際的には国際法の遵守を当然としていますが、権威主義国家は支配者が法を都合のいいように自由に変え、反体制派を弾圧し、国際社会でも国際法は無視されています。
ウクライナへの軍事侵攻は、西側から見れば国際秩序の基本原則に対する挑戦であり、ロシアがこの攻撃で何らかの戦利品を得れば、世界は野蛮な弱肉強食の世界へと逆戻りするのは確実です。
第二次世界大戦はヒトラーを追い込み、ヒトラーを排除することで全体主義国家は滅びました。私個人はこのブログに何度も書きましたが、主義主張の違いを頭だけで当てはめた原則外交には反対です。同時に宥和策も逆効果と考えます。
まずいことにバイデン政権はその両方を持っていることです。
まずは狂気に走る独裁者の排除に全力を尽くすべきでしょう。これは北朝鮮にも中国にもいえることで、企業でいえば日産のゴーン元会長の排除もその一つでした。
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