Empathy

 コロナ禍でリモートワークが浸透した一方、人々は孤立感を高めたといわれています。フランスでは久しぶりに出社に同僚たちと雑談することで大きなパワーを得たという話はよく聞きます。経営者もそこに注目し、社員の交流の場を増やす会社も増えています。

 アメリカのビジネススクールも生産性を高めるキーワードの一つに「共感」を置いています。生産性議論で最も今、注目されているのは短時間労働の効果で、欧米先進国の中では労働時間が長いといわれていた英国でも給与据え置きで週4日制導入が実験的に始まっています。

 短時間労働の先輩はフランスで1990年代後半には週労働35時間制を導入し、結果的に週休3日になる人もいましたが、逆に働きたい人の権利が制限されるという不満も出て、今は大きく変化しています。とはいえ、生産性向上は主要課題の一つで、共感をマネジメントに取り入れるのも話題の一つです。

 背景には、今、欧米で注目される新たなマネジメント手法として最高幸福責任者(CHO)を置く会社がアメリカを中心に増えていることです。つまり、働く人々の幸福感と生産性は比例しているという考えがべースにあるわけですが、人々の間の共感は人間に喜びをもたらす重要な要素です。

 日本で最もポピュラーなのは飲み会で毎日のように居酒屋で会社の同僚と酒を酌み交わすことが、働く源泉になるというのは極めて一般的です。しかし、長時間労働の上の飲み会は結果的に家族と過ごす時間を激減させ、ワーカホリックのサラリーマンが激増し、家庭破壊にも繋がりました。

 そもそも日本の飲み会で共感は、仲間意識を高め、一体感を高める効果が中心で、結果的に企業戦士を生みだしたりしました。そもそも縦社会の日本では人間関係はフラットではないので上司と部下、先輩後輩など上下関係が人間関係の中心で、縦の人間関係から解放された独立した個人同士のフラットの関係で共感するという話ではありません。

 共感が注目されたのはSNSが発達したからで、日本は過去のいかなる時代よりも共感社会が生まれつつありますが、コミュニケーションが成熟していないこともあり、人を平気で傷つけるような発言も目立ち、共感の場が憎悪の場に変わってしまうこともしばしばです。

 コロナ疲れのストレスで疲弊した社員を元気づける方法を、世界中の多くの企業が模索しています。エンゲージメントや働くことの満足度、モチベーションを高めることは生産性向上にとって極めて重要です。ところが多くの企業雇用主は従業員の心身の健康を気にかけていないというデータが最近、アメリカで発表されました。

 リモートワークの浸透で、目の前にいない部下との距離感が増し、与えられた仕事さえこなしてくれればいいという考えが増し、人間としての部下への興味が減ることでメンタル面のサポート意識は希薄になったということだと思います。上司と部下、同僚同士の信頼関係も低下し、当然ながら生産性も落ちている企業は増えています。

 ビジネス向け交流サイト、リンクトインのデータによると、共感力や思いやり、気遣いといった用語を含む投稿が、2019年上半期から2021年上半期の間に倍増したそうです。コロナ禍で枯渇した人間関係への危機感もあると思われます。

 無論、共感力は諸刃の剣で上司が部下のプライベートに踏み込みすぎれば、不快感を与える結果になったり、ポジティブな共感が得られないことに同僚同士が踏み込めば、互いに傷ついて逆効果を生むこともあります。SNSがそのいい例です。

 高級レストランで家族で食事している写真をSNSに投降し、みんなに「いいね」をしてもらおうとしたら、逆に嫉妬を買ってとんでもない言葉が帰ってきたなどというケースもあります。心にもない白々しいフィードバックで褒めたことで人間関係が崩れることもあります。

 とはいえ、共感は大きな力になることも確かなので、ポジティブな感情を大切にする基本さえ守り、相手を思いやるきめ細かな配慮を怠らなければ、効果は絶大です。共感型マネジメントの重要さがますます増していくと考えられます。