800px-Queen_Elizabeth_II_at_Sandringham_(14530070167)

 英君主として史上初の在位70年を迎えた女王エリザベス2世は今、大きな注目を集めています。本人は女王になる前に第2次世界大戦を経験し、戦後、女王になった時は世界は東西冷戦に突入しており、この70年間、度重なる王室を揺るがす危機に見舞われながら、王室を守ってきました。

 4月に96歳となった女王は、公務への欠席もちらほらありますが、引退はせず、自身が誓った「全生涯を国民にささげる」という言葉を貫いています。最近では孫のハリー王子が黒人の地を引くメーガン妃と結婚し、英王室の差別を批判して王室を去る試練に直面しました。

 後継のチャールズ皇太子がダイアナ妃との離婚、交通事故死の後、長年の不倫相手のカミラ夫人と再婚したことも、女王に大きな葛藤を与えました。とりわけ、英君主は英国国教会のトップでもあり、模範を示す立場にあることから、次期国王の行動を疑問視する声も聞かれます。

 交通事故死したダイアナ元妃を国葬にすべきかどうか、エリザベス女王は判断に苦しんだとされ、国民の絶大な支持を集めるダイアナを無視すれば、英王室の存続が危うくなるという試練に直面し、国葬を受け入れたことは映画にもなりました。

 英王室内の男女問題は静まることはなく、今では縁のなかった日本の皇室内でも男女問題が皇室を揺るがすようになりました。王室といえども個人の選択の自由を保障した自由と民主主義の英国では、明文化されている規範は多いとはいえず、エリザベス女王の判断が大きな影響を与えています。

 ヨーロッパに長くいると英国の議会制民主主義がいかに保たれているか注目せざるを得ません。日本のような借りものの民主主義ではなく、民主主義発祥の地に学ぶべきものは多いといえます。それを近年実感したのがブレグジットでの議会の意思決定プロセスでした。

 同時に国王や貴族をギロチンにかけ、聖職者までも排除した大革命を断行したフランスに住んでいると、いろいろ感じるものはあります。天皇を戴く国に生まれ育った私にとっては同じ王は「君臨すれども統治せず」の英国の方が身近ですが、その精神的影響も無視できません。

 日本は国教に近い宗教が存在せず、神道、仏教、儒教が混在し、一神教でもないのに、唯一先進国の仲間入りを果たした信頼度の高い珍しい国です。国の信頼度は国民のモラルが大きく影響しており、米英仏独などの欧米先進国はキリスト教が精神的影響を与えてきました。

 同時に英国のみならず、欧州では11の国が君主制を保っています。英国では英国国教会の長も兼任する国王は、まさに精神的な大きな柱です。たとえ民主主義体制であっても、人は尊敬する存在を必要としており、それが国の精神的安定に繋がるという考えは今でも一般的です。

 最近、権威主義国家、専制国家、独裁国家などが世界を揺るがしています。これまで数世紀に渡って世界で指導的地位にあった西洋諸国は第2次世界大戦後、歴史の結論として独裁を徹底排除してきました。人は権力を持つことで、国民ではなく個人の野望を満たす方向に走り、富の集中で堕落し、腐敗が起き、国をリスクにさらすことを最後はヒトラーに学びました。

 君主制を保つ国でも国王に政治的権限を与えている国は西洋諸国にはありません。エリザベス女王が王室を保てたのも「国民に仕え、奉仕する」という姿勢を貫いたからで、国民に対して王室への奉仕を要求してはいません。もともと東洋のような人間崇拝のシャーマニズムでないことの影響しています。

 ハリー・メーガン夫妻に英国民が冷たいのも、王室ブランドのステータスを目いっぱい利用しながら、一方で国民への奉仕の姿勢を感じないからでしょう。エリザベス女王は日本の天皇以上の激務をこなしてきたといわれますが、英国民はそれをよく理解しているということでしょう。

 過去の国王、権力者が国民に奉仕を供与してきたことが、彼らが滅んだ最大の原因だったと思われます。下が上を支えるのではなく、上が下に奉仕し、常に手を差し伸べる存在であるべきというのは、今、欧米のビジネススクールで説かれているリーダーシップの基本です。日本の御神輿経営の否定です。

 フランスは革命前から権威主義の国だったので、民衆はそれに耐えかねたといえます。今は人類は未曾有の権威主義、専制主義、独裁主義からの試練を受けています。どんなに意思決定が煩雑だとしても自由と民主主義を守る信念が必要な時代だと思います。