Finland_sweden

 北大西洋条約機構(NATO)のストルテンベルグ事務総長は今月18日、北欧のフィンランドとスウェーデンからのNATO加盟申請書を同時に受け取りました。ウクライナ危機でプレッシャーがかかるストルテンベルグ氏は久々の笑顔でブリュッセルのNATO本部に駐在する両国大使2人と申請書を記者団に見せました。

 ストルテンベルグ氏は「申請は歴史的な一歩だ。両国が加盟すれば、われわれの安全保障を高めることになる。私は温かく歓迎する」と述べ、迅速な検討を約束しました。

 ただ、NATO加盟国トルコが、北欧2国がクルド分離勢力のテロ組織を擁護しているとして、加盟に難色を示しており、全会一致が加盟決定の原則なため、トルコとの調整が課題です。

 中立という言葉は戦後の冷戦時代に定着し、特にスイスが知られていますが、スウェーデンもフィンランドも中立を維持してきたため、軍事的中立政策維持のためにNATOには加盟していませんでした。その中立はロシアに直接接するフィンランドにとっては地政学的に生き延びていくための選択でした。

 冷戦時代はソ連側にも自由主義陣営にも属さない国ということで、そのイメージから今回のウクライナ危機でもウクライナのフィンランド化、つまり、EUにもNATOにも属さない代わりにロシアとも距離を置く国になる可能性も議論されてきました。

 私は1990年代初頭に北欧を初めて取材し始めた時、中立がもたらしてきた漁夫の利という言葉に触れました。対立する両者に属さないことで得られるメリットは沢山ありました。フィンランドは西側技術によるオルキルオト原子力発電所とソ連の技術で建設されたロヴィーサ原子力発電所の両方を運用する唯一の国というのもその一つです。

 スウェーデンも福祉大国建設に邁進し、海外では資本主義を前面に出し、ボルボやサーブなどの自動車メーカーで成功を収める一方、国内は長年、社会主義政党が政権を担い、政府によって管理された社会主義色の強い福祉大国を構築していました。

 しかし、中立はスイスを含め、安全保障面では東西両陣営が基本的には守ってくれないため、自国防衛に力を入れざるを得ない状況でした。そして今、ロシアによるウクライナ侵攻の暴挙を見て、その限界を感じたということです。

 NATOに加盟していなければ、仮にロシアに軍事侵攻された場合、ウクライナ同様、NATOは軍事的行動がとれないため、ウクライナのような運命を辿る可能性があるわけです。

 今後、冷戦以降、世界戦争が起きないためのバランス外交が機能しなくなる可能性が高く、同時に世界秩序に強力な影響を与えていたアメリカの存在感が薄まったことも北欧2か国のNATO加盟を後押ししたと考えられます。

 実は対立を文化的に嫌う日本も、どちらかといえば明確な意思は表明していませんが、中立的態度をとってきた国です。アメリカへの従属があまりにも強烈なので、自由主義陣営の一因になっていますが、ロシア、中国との経済、外交関係は、まるで中立国のようです。

 そもそも不戦の誓いを強調しながら、非核三原則や同盟関係にある国に対して集団的自衛権行使に曖昧な態度をとる、およそ独立主権国家の体をなしていない日本は、世界的に見ても不思議な国で、多くの先進国も日本を理解していません。

 実は中立国は対立する両陣営に属さないために大きな決意が必要でした。それは自国防衛だけでなく、世界各地での平和維持活動にも積極的に関与し、国際的信頼度を高める努力がされてきたことです。ノルウェーは国際的紛争の仲介役を買って出て実績を残しています。

 対立を避けるための努力は絶えず大きな外交的課題でした。そして今、スウェーデン、フィンランドの決断は、今後の世界秩序に何をもたらすかです。誰も対立の構図が冷戦時代に逆戻りすることは望んでいません。現時点ではプーチン政権の崩壊を待つぐらいしかできませんが、その後も専制主義の国の脅威は収まらないでしょう。

 第2次世界大戦後に国連を中心に作った世界秩序のための枠組みは、根底から改善する時を迎えているように見えます。グローバル経済が経験した偽善的側面を反省しながら、多極化均衡論に代わる新たな枠組み作りが必要と思われます。