Diversity

 最近出会う新入社員は日本人を含め「大学時代に散々ダイバーシティの効能について学ばさせられた」という話をよく聞きます。グローバルの効能がリーマンションショックや米中対立、コロナ禍で語られなくなった今、ダイバーシティだけは健在のようです。

 グローバリゼーションについては、当初からその間違いを指摘する声がありました。そこには2つの勢力があり、1つは国家主権を最優先する国家第一主義の右派がいて、もう一方にはグローバル化の名を借りてアメリカが世界支配を画策しているとする左派勢力でした。

 コロナ禍で彼らはグローバル化が減速したことで、反グローバル勢力に追い風になりました。そもそもグローバリゼーションはビジネス用語であり、経済活動において国家を超えた相互依存が過去にないレベルに達している今、ロシアの経済制裁の効果が疑われるほど、グローバル化は後戻り不能な段階に入っている状況です。

 では、ダイバーシティはどうなのか。実はダイバーシティとグローバリゼーションは共通した課題を当初から抱えています。それは文化の相対主義に対して、いい悪いという価値観が浮上しているからです。ロシアのウクライナ侵攻でバランス外交は崩壊の危機にあるといわれます。

 いわゆる多国間主義はダイバーシティの考えから来ているものですが、多様な考え、発想から新しいアイディアを生みだすシナジーが期待されてきました。ところがいい悪い、善悪、優劣といった価値観はダイバーシティの妨げということで横に置かれてきました。

 異文化理解も自分の価値観をいったん横において保留し、相手を注意深く観察し、安易な価値判断は行わないのが基本です。理由は価値判断してしまえば、理解を深めることはできなくなるからです。しかし、人類歴史はより高い文明に野蛮な文明が吸収されてきた歴史です。

 悪いもの、間違った者は正しいものによって改善されるべきであり、たとえば今企業で問題になっているガバナンスの問題、コンプライアンスの問題は、不正が会社や消費者、社会に大きな不利益をもたらすという意味で改善が必要であり、相対論の話ではありません。

 ダイバーシティは多くのメリットがある一方で、以下のようなデメリットもあります。
1、ミスコミュニケーション・リスクで、情報の共有化が困難、仕事の非効率化の原因にもなる。2、チームビルディングが困難。3、リーダーシップ、マネジメント手法の相違が混乱を招く。4、自国文化の独善や相手文化への固定観念が深刻な対立を生み、“決められない”マネジメント状況に陥る。

 日本は同じコンテクストを持つ日本人だけで企業運営され、成功を収めた先進国の中では稀有な存在です。上記のようなリスクを抱えなかったのは事実です。無論、今では多くの場合、限界が見えていますが、大半の企業は日本文化の中で仕事をしています。

 私はダイバーシティマネジメントでも「それでいいのか」という価値判断を下すことは避けられないので、適切な判断を下せる普遍的思考の訓練が必要と考えています。イスラム過激派や中国、ロシアが西側のように自由が行きすぎて堕落したくないという批判も間違っていない側面もあります。

 リベラルと無秩序は危ない関係です。グローバリゼーションもダイバーシティも無秩序のリスクがあります。どこかで価値判断が必要で、それはベストではないにしろ、常にベターな判断が求められることを頭に置いておく必要があるといえます。