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 日本の大手雑誌の編集者の多くが執筆者に依頼する際、「なるべく具体的に書いて頂き、抽象論は避けてください」といいます。理由は具体性は現実的情報を提供するのに対して、抽象論は執筆者個人の考えだったり、分かりにくいからともいわれています。

 同じことが異文化理解や人間関係構築でよく強調される自己開示、つまり、オープンマインドになることが人間関係を作る最も効果的手段といわれ、そこでも発話の具体性が鍵を握るといわれています。ところが疑問も残ります。それは人間は抽象的思考もしており、思考には抽象的思考や想像力も含まれるからです。

 フランスにいると、皆がロジカルに科学的根拠を示しながら自分の考えを相手に伝えることが日常行われており、たとえ日本人からすれば論理が破綻し、屁理屈にしか聞こえなくても持論を展開する人は少なくありません。そこに感情も加わり、主張に熱がこもったりします。

 自己開示の診断テストにジョハリの窓などがあります。自己啓発セミナーなどで用いられることも多いセオリーでコミュニケーションを円滑に行うための改善方法といわれています。アメリカの心理学者ジョセフ・ルフトとハリ・インガムが開発した「対人関係における気づきのグラフモデル」で2人の名前をとって「ジョハリ」と命名れました。1955年のことです。

 人間には4つの窓があり、1、自分にも他者にも見えている窓 2、自分は知っているが他者からは見えない窓 3、他者から見えているが自分は見えていない窓 4、自分も他者も見えていない窓 で、オープンマインドの人は1番の窓が広く、閉鎖的な人は4番の窓が大きいというわけです。

 アメリカ人は世界で最も1番の窓が大きく、表裏がなく、本音と建前のギャップがないといわれ、その代表選手はトランプ前大統領かも知れません。一方、日本人は4番目の窓が大きく、世界では隠す天才といわれ、本音と建て前のギャップは非常に大きいといわれています。

 ただ、これは選択の自由と正直を最重要な価値観とするアメリカでは、子供の時から親が「お前は何が好きか」「何を食べたいか」「何をいいと思うか」と尋ねられ、自問自答する訓練がされており、子供の時から周囲との調和のために自分を抑える訓練を積む日本人とでは大きく違うでしょう。

 昔から「日本人は何を考えているのか分からない」といわれますが、考えていないわけではなく、和を壊さないための言動は常に考えているわけですが、自由な自己選択を最初に考える西洋人からすれば、日本人の思考は驚きです。

 とはいえ、西洋人にも本音と建て前はあり、例えばフランスで自由、平等、友愛の精神が強調され、アメリカでは正義が重視されています。ところが人間は高い理想と現実には当然、ギャップがあり、理想的でない自分を隠すこともあります。社会常識も理想が高いほど、本音は隠される傾向にあります。

 名古屋大学の中村雅彦教授の研究では、魅力を感じる自己開示の程度は50%としています。人間はあまりにも自己開示しない人に好感を覚えない反面、自分を語りすぎる人も魅力的ではないとしています。ただ、この研究の調査対象が不明なので世界に通じる内容かは分かりませんが、50%は興味深い数字です。

 つまり、相手が分からないのも困る一方、どこまで相手に対して興味を持つかという程度は、親しくなる度合いに応じてのことです。無論、開示度が高くて、共感できれば人間関係構築は早いでしょう。その一方で、自分で自分のことが分かっていないことも多々あるのが人間です。

 「私はこういう人間なので」という人もいますが、本当に自分が分かっているのか、さらにはその自分だって変化する場合もあるので断定はできません。それに日本人のような恥の文化でないアメリカ人にしても隠したいことはあるでしょう。

 自己開示し過ぎて弱点を相手に握られ、不利になることもあります。今、世界で最も注目されるウクライナに軍事侵攻したロシアのプーチン大統領の心理分析は世界中の専門家が行っています。プーチンはバイデン米大統領に比べ、ミステリアスで何を考えているか解くのは非常に困難です。

 しかし、交渉などの場合は、手の内を見せない方が有利に物事を進められる場合もあり、自己開示は時と場に応じて使い分ける必要があります。