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 ロシアのウクライナ侵攻の脅威が迫る中、北大西洋条約機構(NATO)のストルテンベルグ事務総長は、ロシアのプーチン大統領が、ロシアを取り囲む旧ソ連諸国でのNATOの活動縮小を求めているのに対して、その行動は「逆の結果をもたらしている」と述べ、批判しました。

 今月、米ロ及びNATOと直接対話を通じてロシアが10万人近い兵士をウクライナ国境沿いに配備している緊張を鎮めようとしていますが、ロシアが警告通りウクライナに脅威を与え続ければ、中・東欧諸国の対ロ防衛網の縮小(具体的にはミサイル配備をやめるなど)に対してNATOは、さらに防衛体制を強化する結果を生むとストルテンベルグ事務総長は警告しています。
 
 防衛戦略の常識からいって、相手が敵対する勢力に対して軍備を拡張すれば、攻撃を受ける可能性がある国は自動的に軍備を強化するのは当然の流れです。今、尖閣諸島周辺や南シナ海で中国が軍事的圧力を高めていたり、台湾侵攻の軍事訓練を始める戦狼外交は逆効果でしかないという話です。

 無論、プーチン大統領には、2014年にウクライナ内政に深く干渉し、国を分断する中で、クリミア併合を成功させた成功体験があります。ただ、第2次世界大戦後、既存の領土を力で奪うことが国際的な取り決めとして禁止されている中、大胆にも無視した代償は、経済制裁という結果を生み、今も代価を支払っています。

 共産主義で思考停止に陥った旧共産圏のロシアや追随する周辺国並びに、今も社会主義を信奉する中国の思考は、18世紀、19世紀の帝国主義時代の思考そのままです。戦争という最も非生産的な対立を避けるため、考え方や体制を乗り越えた共存を探る方向に世界はありますが、覇権主義という時代錯誤の国が足を引っ張っています。

 彼らは古典的な戦狼外交を繰り返すことで領土を広げ、繁栄できると思い込んでいるようですが、背景には今の世界の状況に対する受け入れ難い不満があることも事実です。それは民族主義や独裁主義といった過去に滅んだと思われる感情が支配しているともいえます。

 昨年暮れに特赦で収監から解放された韓国の朴槿恵前大統領は、大統領就任時に中国を訪れ、互いの国がめざす民族主義を称賛し、なんと欧米諸国歴訪でも同じ言説を繰り返しました。欧米先進国は第2次世界大戦までの歴史の教訓として、民族主義、専制主義を憎悪しており、嘲笑に値する無知な発言でした。

 共産主義は、これら深刻な軍事的対立を産む民族主義や専制主義を凍り付かせ、大切に保存してきたことで、中ロは今も世界に脅威を与えています。韓国は共産化を避けられたにも関わらず、中ロと同じ被害者意識を持っているのは呆れるしかありませんが、日本にも民族主義は存在します。

 最も深刻なのは、欧米先進国に対する不信感が中ロに根強く、欧米先進国が世界を支配し、思い通りに動かしていると思い込んでいることです。これは18世紀、19世紀、20世紀初頭の帝国主義時代の欧米諸国の横暴が原因となっており、実はその反省が欧米諸国に十分にないという問題もあります。

 私は教鞭をとっていたフランスの大学で何回か植民地支配の過去をどう思うかについてアンケート調査を行った結果、未だに旧植民地に対してフランスが行った暴挙を反省したり、謝罪することは始まったばかりだったことに驚かされました。これが戦勝国の態度だということを思い知らされました。

 フランス人の80代の女性が「昔は良かった。植民地がいっぱいあったから」と私にいったのを忘れられません。彼女は熱心なカトリック教徒ですが「神はヨーロッパ人に恩恵を与えることで文明を発達させ、文明の遅れた全ての国の人々をキリスト教徒にするために私たちが彼らを支配するよう願った」と、固く信じています。

 もうそんなことを信じる欧米の60代以下の人々はいなくなりましたが、その上から目線の傲慢な態度は中国や東南アジア、アフリカの人々を傷つけたのは事実です。

 無論、だからといって中ロを追い詰め、過激な軍事行動に走らせないために、何でも妥協すればいいというわけではありません。実際、西側諸国が手を緩めれば、一気に攻勢に出てくることは否定できないからです。これは欧米諸国がまいた種なので、自分たちで解決する責任があるのも事実です。

 ロシアがカザフスタンの騒乱を抑え込んだことで存在感を示したことに中国は危機感を感じており、中ロの関係も今は微妙です。2022年は世界の不安定化がますます進みそうで目が離せんが、無関心ほど間違った姿勢はないといえます。