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 昨年英国で開催された国連気候変動枠組み条約の第26回締約国会議(COP26)を待つまでもなく、地球温暖化による気候変動は、より具体的被害をもたらす段階に入っています。

 そこでCO2排出量の多い石炭利用ゼロを先頭に代替えエネルギー導入促進や電動自動車(EV)普及などが重点課題となっていますが、気候変動に貢献しそうな原子力発電はデメリットもあり、全面支持とはなっていません。

 アメリカ、フランス、日本のような原発依存度が高い国々には、多少追風ですが、原発依存度が全電力源の12%と比較的低いドイツでは、原発ゼロ推進に舵を切っており、それを反原発勢力は高く評価しています。特に環境政党の緑の党が連立の1角をなす連立新政権が発足したことを歓迎する声も聞かれます。

 この動きに正面切って批判しているのが米ウォールストリートジャーナル(WSJ)です。何と社説で「ドイツの自滅的なエネルギー敗戦ー原子力発電所の段階的廃止、自国の弱体化に大きく貢献」という皮肉のこもった批判記事を掲載しています。

 ショルツ新独政権が表明している環境政策は、1、石炭の段階的使用禁止を加速し、目標をこれまでの2038年から2030年に前倒しする。2、2030年までに国内電力供給の80%を再生可能エネルギーでまかなう。3、2030年までに国内の電気自動車台数を1500万台に増やす。となっている。

 ドイツのメルケル政権は2011年に福島の原発事故を受け、原発の段階的廃止を決めました。現在残っている原発は6カ所のうち3つが、昨年12月31日をもって閉鎖され、残る3つも今年には操業を停止する。WSJは「経済、気候変動問題、地政学の観点から見て、これ以上に自滅的な政策を考え出すのは難しい」と厳しく批判している。

 世界的なエネルギー需要の拡大によって、エネルギー価格が高騰する中、「ドイツの電力先物1年物の価格は、1メガワット時(MWh)当たり300ユーロに達している。2010年から20年までは、平均で1MWh当たり50ユーロ未満だった」と指摘し、産業に壊滅的打撃を与える可能性に触れている。

 一方、石炭は2021年上半期に同国の最大のエネルギー源となり、発電された電力の4分の1以上を占めた。風力と太陽光はそれぞれ22%と9%を占め、原子力は12%前後に落ち込んでいたが、その石炭でさえ、2030年に全廃しようとしている。

 原子力発電への依存度が69.9%と世界で最も高いフランスの人口1人当たりのCO2排出量は、ドイツの半分程度。フランスも他国同様、原発の停止や価格が急騰している天然ガスの利用拡大によるエネルギー価格高騰への対応を迫られているが、マクロン政権は原発の建設を増やす方針を表明しています。今春の大統領選の主要テーマにはなっていない。

 「太陽光・風力発電政策に翻弄される状態を自らつくり出してしまったドイツは現在、電力供給維持のためロシア産天然ガスへの依存度を強めつつある。これがロシアのウクライナ攻勢に対し、ドイツの反応が鈍いことの背景にある。同盟諸国の反対にもかかわらず、ドイツはロシアからのガス輸送パイプライン「ノルドストリーム2」計画を断固として支持しており、EUの対ロシア外交を阻害している」とWSJは指摘している。

 さらに「ドイツは現在、欧州連合(EU)の「環境的に持続可能な経済活動」のリストに原子力を入れないよう圧力を掛けている。このリスト対象に指定された場合、原子力開発プロジェクトに対する資金コストは低下する。自国のエネルギー安全保障を弱体化させただけでも十分問題だが、ドイツは自国の自己破壊的政策を欧州大陸の他の諸国に押し付けるべきではない」とWSJは強く主張している。

 EUの経済最強国の奢りなのか、ドイツの村意識の独善なのか、中国にも歯切れの悪いドイツは、ロシアにも腰が引けています。どこかでかつての同盟国だった日本と同じような態度を立っているのが印象的といわざるを得ません。

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