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  政治議論で盛り上がったダヴィッドの家の夕食会

 フランスの甥っ子のダヴィッドが建てた自宅は、周囲の家々とは不協和音を放っている。夫婦ともに建築家のダヴィッドは、伝統的な建築を嫌い、最先端のデザインの家を建てたかったという。本人曰く「建築許可を巡り、当局との戦いは熾烈だった」と。

 実はフランスには町の景観法などがあり、自分の家の建て増しでさえ、申請してから許可が出るまで1年以上掛かるお国柄。景観だけでなく個人のプライバシーも重視される。たとえば新築や改築で近所の家の距離によって窓の位置が規制されている。

 友人のアランは改築時に作りたかった窓が、その窓越しに対面の家が覗けるという理由で高い位置に明り取りの窓を設置することしか許されなかった。ダヴィッドの家はそもそも様々な規制に引っ掛かり、何度も設計変更を迫られ、彼自身も建築基準法や町の条例を学んで戦ったそうだ。

 彼の友人の40代の建築家は結局、妥協を嫌って自分で設計した家を建てるのを断念したといっています。そのダヴィッドの頭の中にあるのは、高校生の時にホームステイした私の友人で米フロリダ州タンパに住む建築家、リーフの家。

 屋内と国外にプールがあり、車は4台所有し、大きな家に住んでいる。ダヴィッドはその経験からフランスがみすぼらしく見え、自分も建築家になってリーフのような豪邸を建てて住みたいと思うようになった。最近、彼の家を訪れ、「リーフの家のレベルにまだたどり着いていない」と彼はいった。

 それでもベッドルームは5部屋、シアタールームもあり、バスルームは3つ、最新の窓ガラスは3枚重ねで断熱し、吹き抜けの居間も含め、最先端の暖房システムで家の中はTシャツで過ごせる暖かさだ。当然、ソーラーパネルも取りつけ、環境問題にも配慮している。

 家の地下の駐車場には、新モデルのBMWのSUV車とアウディ、BMWの大型2輪車2台が置いてあり、家の規模でアメリカで体験した豪邸のレベルは達成できない分、補っている。コロナ禍前までは毎年2週間はニューヨーク、マンハッタンの高級ホテルに滞在していた。

 夫婦とも建築家の稼ぎは悪くないだけでなく、彼らの両親が資産家なので相続が決まっている資産も彼らの頭の中にある。ダヴィッドの家は友人たちにも好評で、週末には誰かが泊まりに来ている。

 そんなダヴィッドと親族が集まる私も同席した食事会で起きた議論は注目に値した。招いた客の中に同性愛者でフランスで精神科医となった50代のブラジル人のマルセロがいた。話題は来春の大統領選挙のことになり、政治談議が大好きのフランス人たちは話が盛り上がった。

 そこで突然、そのマルセロが「自分はメランション候補に入れる」と言いだした途端、空気は変わった。メランションは極左の候補者でバリバリの社会主義者で格差解消、資本家を敵視し、社会的平等が政策の中心だ。ダヴィッドは「この家の中にメランション支持者がいるなんて」といいだした。

 ダヴィッドは、それでもメランション支持の理由を問い詰めた。ところがマルセロはうまく答えられない。そこですかさず「じゃあ、極右の候補ルペンについてどう思っているのか」と聞くと「とんでもない絶対に支持しない」とマロセロがいうので「理由は?」と聞くと、まともに答えられなかった。

 そのうち激しい口論になり、10人ほど集まっていた食事会は凍り付き、マルセロは怒って食事の途中で帰っていった。ダヴィッドが目の敵にしているのは、平等重視の観念的社会主義左派。そんなイデオロギーがフランスも若者に希望を与えない国にしたとの強烈な思いがある。

 いわゆるフランス人が批判的に使うアングロサクソンの資本主義に染まっているわけだ。しかし、彼のような若い世代は増えるばかりだ。経済力もないのに大量の移民を受け入れ、その移民たちは生産性はなく社会保障の恩恵だけ受け取り、感謝もしないでテロまで行っているという不満が拡がっている。

 アメリカのように金儲けした人々が貧困層に自らの意志で寄付するのはいいが、有無も言わさず高い税金を課して、その税金を湯水のように移民の貧困層に与え、もらう側の移民は法律を無視し、フランスには溶け込まず、治安を悪化させていると考えるフランス人は増える一方だ。

 ダヴィッドの母親、つまり私の妻の妹は、もともとは社会党支持者だったが、オランド左派政権を最後に「もう社会党には絶対に入れない」といっている。「貧困層にフォーカスするより、能力のある人にまず稼いでもらわなければ国はもたない」と彼女はいっている。

 お隣の国ドイツでメルケル保守政権は左派政権に移行し、緑の党まで政権に加わった。ドイツは左旋回中だ。逆にフランスは右旋回中で、その勢いは今のところ変わる気配がない。ダヴィッドの例は極端にしても、社会主義で問題解決しようという考えを支持する人は激減している。

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