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 香港立法会(議会、定数90)選挙は20日、開票作業を終え、予想通り、数人の自称民主派全員が大差で落選し、親中派の「圧勝」が確定。立法会選で3〜4割の議席を占めていた民主派は、1997年の香港返還後初めて議席ゼロになった。一国二制度は中国の強圧政策によって完全崩壊したといえるでしょう。

 圧勝した親中派のロジックは「愛国心」という名の中国共産党への忠誠心。中国中央政府に反対する者は愛国者ではないとして排除されました。一方、直接選挙枠(定数20)の最終投票率は30.2%で、2016年の前回選挙の58.3%を大きく下回り、過去最低。有権者の失望は明白になりました。

 2014年にクリミアを軍事力で併合したロシア同様、国際社会の批判をよそに、中国は香港から民主派を排除し、社会主義体制に取り込むことに成功したといえます。自由主義陣営が様々な制裁を科しても専制主義のロシアや中国の前にはなすすべがないように見えます。

 中国にも事情があり、人口減少や経済成長の行き詰まりの中、世界制覇に与えられた時間が秒読みで強硬路線に転じているといえそうです。トランプ米政権で中国の覇権主義の正体を暴かれたことによって、一帯一路の水面下で進められていた世界支配が表面化したため、焦っているともいえます。

 この流れでは、次の標的は台湾であることは明白です。私は昨年、中国の途上国に仕掛けられた債務の罠について、月刊誌「正論」に寄稿した通り、着々と弱小国家群は台湾との国交を断絶し、中国に取り込まれる流れは変わっていません。この流れは欧米の人権外交の原則主義では到底食い止めることはできない。

 反中のバイデン米政権を中心に欧州の中国離れも進み、ドイツも親中のメルケル政権から左派連立政権に移行し、中国の人権問題に厳しい姿勢を取る流れだが、果たして専制主義に勝てるのかは疑問です。リベラル派は基本的に原則論が先立ち、一貫性がありそうですが、多様な価値観が交錯する外交の世界では原則論は無力な場合が多いことは周知の事実。

 一貫性と柔軟性を織り交ぜながら、高度な戦略を持つ必要があります。これはグローバルビジネスの世界で結果を出すための戦略とも似ており、机上で考えた原則論は、しばしば異文化の壁にぶつかり機能せず、挫折するのと同じです。トランプ前米大統領のような国益重視の超実用主義の方が結果を出せると私は考えています。

 ヨーロッパは基本、原則主義で自由と民主主義、法治国家、人権重視の原則で、体制の異なる国に対峙しがちですが、政治と経済を別物としてメルケル前独首相のように中国との経済関係を重視してきた経緯があります。ところが中国の経済は完全に政治支配下にあり、うまくいきませんでした。

 アメリカの共和党は原則論だけでなく、実用主義なので柔軟性がある一方、民主党は原則論が前面に出て、相手に自らの価値観を押し付けようとしますが、実際に歴史的に外交で成功した試しはありません。そこに民主主義の劣化が加わり、最悪なのはデジタル化を世論操作に使うリベラル派が今、台頭していることです。

 当面、香港はあきらめざるを得ない状況ですが、これで味を占めた中国が台湾に手を伸ばす流れは、日本の国益に重大なダメージを与えるため、放置できない状況です。私は弱小国軽視はリベラル派のエリートの感性が大いに作用していると見ています。

 人道主義を掲げるリベラル派ですが、彼らの弱点は自己犠牲はできないことです。債務の罠をかける中国と似たようなものです。私は弱小国を中国にとられたくなければ、西側先進国は無償の援助を増大させる自己犠牲が必要と考えます。

 同じ価値観を共有する国々の結束だけでは、弱小国が中国に取り込まれる流れを変えることはできないでしょう。自分の身を削って支援する行動をとらなければ、今の流れを変えることはできず、クリミアを強引にロシアが併合したように、台湾が中国に併合される日も近いといえそうです。