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 日本は今のところ先進国の中で、最も新型コロナウイルスの感染拡大を抑えられている国だ。その事実は今後、変わるかもしれないが、感染力の強力なオミクロン株も抑えられている。未だに正体不明の新型コロナウイルスなので、科学的に日本が抑えられている理由を説明できていないが、水際対策の徹底は大きな要因の一つと考えられている。

 成田空港の責任者がメディアに出て「徹底した水際対策を実施する決意だ」と述べたが、個人的には大きな問題を感じる。理由はウイルスの海外からの流入を阻止するために、それを運んでくる人間に対して、まるで罪人のように扱っているからだ。

 これは経験したことのある人間しか語れないことだが、その経験者として正直憤りを隠せない。それに私には日本人だけでなく、その体験を強いられた外国人(日本人の親族がいる人たち)の声も多数聴くことができる。非常事態におけるある程度の人権制限は仕方がないにしても、限度を超えている。

 それも、すでに今回のコロナ問題で1年10か月が経ち、経験も豊富なはずなのに、事態は改善されていない。事実は政府が準備した退避場所(実際には隔離場所)に、アンケート用紙が置いていないことだ。つまり、多くの自由を制限された人々の声に耳を傾け、少しでも不安や不満、怒りを鎮める努力がされていないことは深刻と言わざるを得ない。

 必ず聞こえてくるのは「現場の人間は必死に努力している」「感染拡大を抑えるには必要な措置だ」という意見だ。忖度文化の日本では政府の実施する政策を斟酌することが是とされ、批判したり、文句をいうのはモラルに反するという精神が濃厚だ。

 しかし、この問題の核心は何かといえば、空港に到着した人々が検査を受け、政府が準備したホテルにたどり着くまでに、早くて6時間、ひどい場合は退避場所に移動するのに、さらに飛行機に乗せられ、トータルで10時間以上、掛かっている現実だ。デジタル化の遅れも原因の一つだ。

 最も問題なのは、現場に動員されたスタッフは派遣やバイトで、外国人も多く、誘導される側の人々に全体の流れを説明できないことだ。空港を5時間後にやっと出てバスに乗り込んでも、そのバスがどこに向かうのかスタッフは答えられない。つまり、ナチスの収容所に運ばれるユダヤ人のような心理状態に陥っている。

 人間は、これから起こることを知らされないほどストレスや不安を感じることはない。関わっているスタッフは必至に頑張っているのは事実だが、実は最大の問題は設けられたいくつかのチェックポイントに責任者が不在していることだ。これは深刻なマネジメントの問題。

 バイトのスタッフが持ち場で必死に頑張っていても、誘導される側は強烈なストレスを感じる。質問に答えられるリーダーが不在している状況を作り出していることが、私には最大の改善点だと感じた。

 その根底には、私が自著にも書いたような日本人の下僕の精神が漂っている。奇しくも6日間のホテル隔離を終えた若者が「私たちにだって基本的人権はあると思うんだよね」「何にも説明してくれないのは拷問みたいだった」と言っていたのが印象的だった。

 同じことを他の国で行えば、事件が起きてもおかしくない状況だ。ウイルスは悪でも人間は悪ではないからだ。ウイルスを運ぶ人間を行動制限するには当然としても、日本の忖度文化を世界に押し付けるのは間違った行為。人間に対しては尊厳を守り、理解してもらう言葉が必要だ。

 暗黙の了解など通じないし、だからこそ退避させられた人間からのフィードバックは欠かせない。実は海外赴任した日本企業の管理職が失敗するのも同じパターんが多い。「いわずして悟れ」は通じない。何度も丁寧な説明をしても、それでも意思疎通が難しいのが異文化、日本人同士でも同じはずだ。

 まずは、相手を尊重する姿勢がなければ、適切なマネジメントはできない。水際対策で露呈した下僕の精神は、グローバル時代には程遠い対応としか映らない。隔離された方が囚人のように感じれば、それは失敗というしかない。まずは体験者の声に耳を傾け、改善を繰り返す姿勢が必要だろう。

 受け入れ態勢を整えられない現実は、1年10カ月も経てば言い訳にはならない。まして東京五輪・パラリンピックも経験している。人間扱いされていないと感じさせやのも失敗だし、島国の閉鎖性も強く感じさせている。それより気になるのはこの非常事態で一儲けしようという利権を漁る関係者の匂いがすることだ。それは途上国並みというしかない。

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