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 ユニセフ(国連児童基金)が今年10月に明らかにした『世界子供白書2021:子どもたちのメンタルヘルス』は、21世紀における子どもたち、若者たち、養育者のメンタルヘルスの問題に対処する十分な投資がなされていないと警告を発した。今後も何年にも渡って彼らの苦しみが続くだろうとの認識を示した。

 同白書によれば、最新の推計で世界の10〜19歳の若者の7人に1人以上が、心の病の診断を受けており、毎年46,000人近い若者が自殺し、同年齢層の死因の上位5位に入っていると指摘している。

 このような深刻な状況にも関わらず、メンタルヘルスに必要な投資と投じられる資金の間には大きなギャップがあり、同報告書によれば、世界で政府の保健・医療分野予算のうち、メンタルヘルスに割り当てられる支出は、全体のわずか2%にしか満たないという。

 社会的弱者でもある保護が必要な子供のメンタルヘルスの悪化は、新型コロナウイルスの蔓延によるロックダウン(都市封鎖)や教育現場の封鎖、人間同士の接触制限、コミュニケーションの遮断という大幅な環境の変化によって、さらに深刻さを増している。

 ユニセフのヘンリエッタ・フォア事務局長は、「子どもたちは家族や友人、教室、遊びなど、彼らの幼少期にとって重要な要素から切り離され、人生において消すことのできない年月を過ごした」とする一方、それ以前から深刻さを増しており、「将来の人生との関係において、その重要性が十分に認識されていない」と指摘している。

 コロナ禍の影響については「世界子供白書2021」の中で、ユニセフとギャラップ社が21カ国の子どもたちとおとなを対象に実施した国際調査の初期結果から、15〜24歳の若者の5人に1人が、しばしば憂鬱な気分になったり、無気力感に襲われたりすると回答している。

 将来が見えない不安とプレッシャーは確実に若者の心を蝕んでいる。

 実際、2020年初頭に中国で行われたオンライン調査によると、回答者の約3分の1が恐怖や不安を感じていると回答している。学習機会の喪失、経済不安、社会環境の不安定化は、恐怖や怒り、無気力感などネガティブな感情を引き起こし、メンタルヘルスを悪化させている。

 そこに欧米諸国では、ロックダウン中に急増した家庭内暴力(DV)が加わり、父親が母親に暴力を振るう姿を子供たちは目撃し、子供は親からの虐待、貧困などで、傷んでいる心をさらに痛めつけている。子供の成長にとって生命線ともいうべき親など養育者の愛情を受けられない現実は深刻といわざるを得ないが、各国政府の投資は極めて少ない。

 コロナ拡大に伴う外出制限などにより、DVが欧州では3割以上増加したことが国連で報告している。国連組織「UNウィメン」はコロナの陰に隠れたDVの「パンデミック(世界的大流行)」と警鐘を鳴らしている。

 DV被害が10年以上前から社会問題化していたフランスは、外出制限令と同時にDV対策を政府が打ち出し、英国でも同国最大の家庭内暴力被害者支援団体「リフュージ」のヘルプラインに封鎖措置後、通常の7倍もの数の相談電話を受ける日もあったと報告された。DV駆け込みスペースの提供を英薬局チェーンは始めるなど官民で取り組んでいる。

 仏内務省統計サービス(SSMSI)によると、コロナ対策のロックダウンが始まった2020年3月時点の国家警察と憲兵隊が把握した仏全土のDV事例は、878件だったのが、今年3月には1,598件と82%に大幅増加した。もともとDVは、この10年間で約3倍に増えており、コロナ禍でさらに深刻化した形だ。

 フランス議会特別調査委員会が「18歳未満の若者の半数以上がメンタルヘルスに不安を抱えている」と報告書で指摘したのを受け、マクロン仏大統領は、3〜17歳の未成年者を対象に、専門家との心理相談を最大10回まで無料とする方針を打ち出した。

 ドイツではコロナ禍の1年が過ぎた時点の調査で、約3人に1人の子どもがメンタルヘルスの問題を抱えていることが明らかになった。調査を実施したジーバラー氏は、抑うつ症状や、胃痛や頭痛などを訴えるケースも報告されたとしている。また、メンタルヘルス悪化の理由として、不健康な食生活と運動量の減少を挙げている。

 さらに社会的に恵まれない家庭の子どもたちほど、メンタルヘルスの問題の影響を受けやすいと指摘している。また、仕事を持つ母親の負担が増えていることから、教育者が1人1人の子どもに寄り添う教育実践をするようドイツ政府は教師に要請し、母親の負担を減らすよう努力している。

 ドイツでは、大学生がオンラインで家庭教師のサービスを提供する動きが広まり、リモート授業で十分に学習できていない高校生以下の子どもたちに学習支援するコロナスクールが設立され、設立から1年が経ち、現在は2万人以上の生徒と13,000人以上の学生が登録されている。

 ユニセフ(国連児童基金)が2020年に発表した世界38カ国に住む子どもの幸福度で、日本は生活満足度の低さ、自殺率の高さから「精神的な幸福度」が37位と最低レベルだった。逆にオランダは幸福度で高い数字を打ち出し、注目を集めた。

 オランダは個性教育に力を入れており、違いを肯定的に捉え、自己肯定感を大切にする教育を教育現場だけでなく、家庭でも実践している。価値観の押し付けを行わないことで、子供が個人の能力ややりたいことへの自信を養っている。

 欧州では、若年層のメンタルヘルスへの取り組みが、この10年で飛躍的に伸びた。問題を抱える30歳以下の若者に対して専門家が家庭訪問し、具体的支援も行っている。試行錯誤しながらも、ユニセフが指摘するよう、さらに投資を増やす方向にある。

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